EU容認で関心高まる合成燃料(e-fuel)の可能性

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2023年04月12日

欧州連合(EU)は2023年3月28日のエネルギー相会議で、エンジン車の新車販売を2035年から禁止するとしていた方針を転換し、「合成燃料」の使用を条件に販売継続を認めることで合意した。合成燃料とは、工場や発電所などから排出された二酸化炭素と、水素から作られる液体燃料である。特に再生可能エネルギー由来の水素で作った合成燃料はe-fuel(イーフューエル)と呼ばれる。

合成燃料は製造技術やコストなどで課題を抱える。だが途上国を含めた世界の自動車の脱炭素化は、EVや燃料電池車の普及拡大だけでは難しい。合成燃料は既存のエンジン車だけでなく、航空機などEV化に向かない輸送機械にも利用できる。また、EVの中核部品として使われるレアメタルやレアアースの多くは中国、ロシア、南アフリカなど特定の国に偏在しているため、経済安全保障の観点からEV以外の技術開発を進める重要性が高まっている。

モータースポーツ界では、バイオ燃料を含む合成燃料の使用が急速に進んでいる。例えば、世界最高峰の自動車レースであるF1では2022年からバイオエタノールを10%混合した燃料を使用しており、2026年からは100%カーボンニュートラルな燃料とする方針だ。

日本政府は2040年までの合成燃料の自立的な商用化を目指し、グリーンイノベーション基金などを通じて技術開発を後押ししている。2022年6月に岸田政権が閣議決定した骨太方針では自動車について、「将来の合成燃料の内燃機関への利用も見据え、2035年までに新車販売でいわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車)100%とする目標等に向けて」関連施策を推進するとされた。

EV化の流れは今後も続くとみられるが、EUの方針転換により、数多くの研究開発や実証プロジェクトが立ち上がっている欧州において合成燃料の商用化が加速する可能性がある。EVで欧米や中国に後れを取る日本は、これまでの支援規模や目標で十分なのか検討を進めるべきだ。また、合成燃料の製造コストの大幅な引き下げには規模の経済を働かせる必要もあるだろう。例えば、国内で販売されるガソリンに合成燃料を一定割合で混合することを国が将来義務付けるとともに、それをロードマップなどにあらかじめ明記することで、関連企業に積極的な設備投資を促すことが考えられる。

世界の主要国がカーボンニュートラルの実現を目指す中、合成燃料の商用化は国内外の自動車需要や産業構造に大きな影響をもたらす可能性がある。この分野で日本政府と企業が主導的な役割を果たせるか、今後の取り組みに注目したい。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司