陶磁器のマテリアルリサイクル

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2023年03月31日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 宮内 久美

磁器・陶器などの焼きものが好きで、趣味で収集している。観賞用の高価な壺や茶器などではなく、食器や土鍋など日々の生活の中で普段使いするためのものを、少しずつ買い集めて日々使用している。スーパーで買ってきた総菜も、自分好みのお皿に盛りつけるだけで立派なごちそうに見え、コロナ禍の自粛生活にささやかな彩りをもたらしてくれた。

しかし器は洋服などと同じく、好きで買ったものでもしばらく使っているうちに飽きたり、新しいものが欲しくなったりし、買い足していくうちに収納スペースが確保できなくなるという状況に陥りがちである。不要になった器は廃棄するかリユースに回すしかないというイメージがあり、リサイクルの仕組みはないだろうかと考えていた。

生活に身近なリサイクルというとペットボトルや食品トレーなどのプラスチック、瓶や缶類、衣料品などが思い浮かぶ。中でもプラスチック類のリサイクルは、廃棄物の86%(産業系と一般系の合計)(※1)がリサイクルされており、リサイクルの種類としては、エネルギーとして回収するサーマルリサイクル、化学物質まで分解するケミカルリサイクル、素材を再生利用するマテリアルリサイクルの3種がある。一方、陶磁器の場合は、サーマルリサイクルやケミカルリサイクルは不可能なので、マテリアルリサイクルしか選択肢はない。

調べてみると、使い終わった陶磁器を回収してまた陶磁器を作るための材料として加工をする陶磁器のマテリアルリサイクルは、岐阜県多治見市で先駆的に取り組まれてきたようだ。多治見市は美濃焼の産地として知られているが、岐阜県のセラミック研究所の呼びかけで、陶磁器を資源循環させるための一連の企業が集まり、グリーンライフ21・プロジェクトという組織を設立したとのこと(※2)。一番興味があったのは、どのように食器を加工前の土に戻すのかという工程であったが、同プロジェクトによれば、回収した食器を粗く粉砕した後、一定量(20%など)を粘土などに混ぜ込み、更に粉砕することで、焼き物用の土、坏土(はいど)として再生できるそうである。この再生坏土は、一度高温(1300℃前後)で焼成された食器由来の土が含まれているため、割れにくい、焼成温度を下げることができる、などのメリットもあるとのこと(※3)、普及が進めば、利便性や省エネルギーの点からも、注目される可能性がある。

一方、陶磁器のマテリアルリサイクルにとっての課題としては、食器回収の仕組み、リサイクル坏土の製造コスト、リサイクル坏土の陶磁器産地での活用拡大など、様々考えられる。回収については、多治見市では、3カ月に1回陶磁器食器の回収を行い、資源としての活用を行う仕組みができている(※4)が、これは資源活用が可能な産地ならではの取り組みといえる。このような取り組みは全国の陶磁器産地や首都圏などの消費地にも広がりつつあるようだが、どこに住んでいても当たり前に陶磁器のリサイクルができるようになるには、まだ時間がかかりそうである。収納スペースを気にすることなく、気に入った器を買い足していけることが器好きにとってのサステナビリティだが、この目的達成のためにも、陶磁器のリサイクルの進展に今後も注目していきたい。

(※1)資源・リサイクル促進センター「リサイクルデータブック2022」P.89

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宮内 久美
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