アクティビスト・ファンドの活発化を予想する5つの理由

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2023年03月17日

昨年(2021年7月~2022年6月)、株主総会で株主提案議案を付議した上場会社は96社で、うち47社がファンドからの提案だった(商事法務『株主総会白書2022年版』)。いずれも過去最高だ。今年に入ってからもアクティビスト・ファンドの動きは活発で、取締役の解任や選任に関する提案さえ可決されるようになった。こうした表面に出る動きだけでなく、水面下での上場会社へのファンドによる働きかけは相当多そうだが、このトレンドは今後も収まりそうにない。そう考えられる理由はいくつかある。

①プライム市場上場維持のための工夫 
プライム市場の上場維持基準未達でありながらも経過措置の適用を受けてプライムを選択した会社は、3月末決算であれば2025年3月末時点で基準をクリアしていなければ改善期間入りし、その後監理銘柄に指定され、上場廃止に近づく。これを避けるために株価引き上げや流通株式増加に取り組む必要があるが、これはアクティビスト・ファンドにとっても投資機会を広げることになる。

②低PBR会社の改善策開示
東京証券取引所は主に低PBR会社を念頭に、その改善策や進捗の開示を求める見通しだ。割安株を狙うアクティビスト・ファンドにとっては、普段から会社側に要求している、増配、自社株買い、不採算事業からの撤退などの株価対策について計画期間を付けて公表してもらえるのだから、好都合だろう。

③大量保有報告制度の見直し
3月2日の金融審議会では、大量保有報告制度の見直しが提案された。これは、投資家がグループを組んで会社側と対話することを容易にすることが目的の一つだ。対話のテーマとしては、まずは会社が取り組む環境や社会問題が想定されているようだが、それに限定されるとは考えにくい。財務戦略や事業戦略といったアクティビスト・ファンドの得意分野で、ファンド同士が連携をして会社側に働きかけることが促進されそうだ。

④日本に参入するアクティビストの増加
日本に参入するアクティビスト・ファンドは増加の一途だ。2014年には8ファンドだったが、2019年に33になり、2022年には68にまで増えた(株式会社アイ・アール ジャパンホールディングス「決算説明会資料 2023年3月期 第3四半期」2023年2月3日)。アクティビスト・ファンドの成功事例を見れば、日本に関心を向けるファンドが一層増えることになるだろう。

⑤アクティビストの世界的な活発化
世界中でアクティビスト・ファンドの行動が盛んになっている。時価総額5億ドル以上の会社に対するアクティビスト・ファンドのキャンペーンは、2022年に235件を数えた。これは前年から36%増で、ここ4年では最多だった (“Lazard’s Review of Shareholder Activism – 2022” 2023年1月18日)。日本においてアクティビスト・ファンドが目立つようになったのは、こうした国際動向と無縁ではない。

以上のような事情を考えると、日本におけるアクティビスト・ファンドの一層の活発化が予想される。

米国では、アクティビスト・ファンドが株主提案権を使うことはまずない。配当増や取締役候補擁立は株主提案としては禁止されているからだ。米国で取締役候補を擁立しようとすれば、プロキシ-・ファイトというかなり費用がかかる手続きが必要だが、株主提案の使い勝手が良い日本では低コストでそれができる。日本で活動するアクティビスト・ファンドは数を増し、それを裏打ちするかのように株主提案が急増している。上場会社にとっては、厳しい状況が続きそうだ。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕