段ボールが示す米国の景気悪化シグナル
2023年03月03日
米国経済は一体全体景気が良いのか、悪いのか。最近こうしたご質問をいただく機会が増えた。この質問をいただくこと自体、足下の米国経済がまだら模様であることを示唆している。例えば、投資や企業の生産関連指標は冴えない。一方、堅調な雇用環境に裏付けられ、個人消費関連指標は底堅い。「米国経済の屋台骨である個人消費が落ち込まなければ、米国経済は大崩れしない」というセオリーに基づいて最初の質問に答えるのであれば、足下の米国の景気は減速しているものの、悪くはないといえるのかもしれない。
とはいえ、ニューヨークで日々を過ごしている筆者は、消費者行動にも目に見えた変化が起きていると感じている。それは、街中で見られる段ボールが減ったことである。これまではマンションには段ボールの箱があふれ、そして、集積所には使用済みで折りたたまれた段ボールが積み上がっているのが日常の風景であった。しかし、そうした光景は足下であまり見られない。筆者が住むマンションの管理人に話を聞いても、受け取る段ボールの荷物や使用済みの段ボールは減っているとのことである。また、街中で走るトラックの台数は減り、宅配便の受け取り設置所の行列も短くなった。Eコマースによる配達はもちろんのこと、アメリカで生活する人々はまとめ買いすることも多く、段ボールの使用量は家計がどれだけ消費をしたかを測る指標になる。また、段ボールを大量に使うタイミングとしては引っ越しが挙げられる。使用済みの段ボールの多寡は、住宅市場の良し悪しに加え、新居での家具・家電の買い替え動向を反映するだろう。つまり、街中の段ボールが減ったということは、家計の消費行動が消極化しつつあることを示唆している。
過去を振り返っても、段ボールの使用量は景気変動と密接に連動してきた。例えば、需要を反映した段ボールの生産量は、景気後退期或いはそれに先駆けて大きく落ち込む傾向があり、個人消費ひいては景気の良し悪しを測るバロメーターとなってきたことがわかる。足下の段ボール生産量を見ると、2022年3月をピークに急ピッチで減少し、直近(2022年12月)の水準はコロナ禍直前(2019年12月)を大きく下回り、は2010年7月以来の低水準となった。また、米国の段ボール協会も2022年10-12月期の出荷量が前年比ベースで2009年4-6月期以来の大幅な落ち込みとなったと指摘している。段ボールの使用量や生産量の減少は、ポストコロナへと移行したことに伴うEコマースの利用減や、感染対策がほぼ必要なくなったことに伴う引っ越し需要の減少といった特殊要因の影響もあるだろう。こうしたコロナ禍やポストコロナを境とした生活の変化が段ボールの使用量や生産量を減少させている可能性を考慮する必要がある一方、高インフレや金融引き締めに伴い個人消費が息切れし始め、景気悪化を示唆するシグナルとなっている可能性の方にも注意が必要だろう。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
主任研究員 矢作 大祐
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