米証券会社におけるベストインタレスト規制のその後
2023年02月24日
今年も米国証券業の自主規制機関である金融取引業規制機構(Financial Industry Regulatory Authority, 以下FINRA)が、2023年1月10日に「検査・リスクモニタリングプログラムに関する報告書2023」(※1)を公表した。定点観測として、2020年6月から施行されたSEC(証券取引委員会)規則であるRegulation Best Interest(Reg BI)(※2)の検査結果について概観したい(※3)。Reg BIは、ブローカー・ディーラーが個人顧客に証券取引等を推奨する際に、顧客の最善の利益のために行動することを義務付ける規則である。
今年の報告書においても、昨年に引き続き、一部のブローカー・ディーラーがReg BIを遵守できていない場面が指摘されている。例えば、「商品を推奨する際に、販売手数料のみ考慮し、他の関連するコストや手数料を考慮しなかった」(注意義務の不履行)、「証券取引または証券に関わる投資戦略の推奨に関連する利益相反を特定、開示、排除していない」(利益相反回避義務の不履行)、「推奨により受け取る手数料など利益相反に関連する全ての重要な事実を『完全かつ公平に』顧客に開示していない」(開示義務の不履行)などの指摘である。
FINRAは同報告書で、昨年と同様にReg BIを遵守するための「効果的な実践方法」を提示している。注意義務に関しては、高リスク、高コスト、複雑、または利益相反の高い商品の販売をより厳格に監視したり、そうした商品の販売を特定の顧客タイプに限定することなどが示されている。また、営業員による投資推奨が注意義務の要件を満たしているかどうかにつき、証券会社のコンプライアンス部門が毎月確認するといった新しい監視プロセスの導入など、具体的な方法を提示している。
これらの一部は昨年の同報告書でも提示されていたことからすると、Reg BIの施行から2年半を経ても、一部の証券会社は対応中ということがいえるだろう。SECが毎年公表する検査優先事項の2023年版(2月7日公表。※4)においても、Reg BIの遵守状況の検査は優先課題とされている。
こうしたSECやFINRAの報告を踏まえると、米国では、証券会社に顧客の利益を最優先する行動が浸透するには、まだ時間がかかるだろう。日本でも顧客本位の業務運営に関する原則の一部をルール化する動きがあるが、先にルールを実施した米国の証券会社の対応や当局の反応は、先行事例として、参考にすべきものになるだろう。
(※1)2023 Report on FINRA’s Examination and Risk Monitoring Program
(※4)SEC: 2023 EXAMINATION PRIORITIES
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 何故、円安・ドル高が止まらないのか?
中東情勢の混乱が続く中、円安と物価高・実質賃金低下の悪循環が継続するリスク
2026年04月16日
-
「過去最大の経常収支黒字」に潜む課題
企業の「海外で稼ぐ」姿勢を反映し、投資収益の寄与が拡大
2026年04月16日
-
企業が意識すべきCGコード改訂案のインプリケーション
「金融資産」「実物資産」がコードに入った意味
2026年04月16日
-
地域別にみた中小企業の資金調達環境
信用保証協会保証付き貸付の相対的市場シェアに着目した競争圧力の検討
2026年04月15日
-
ホルムズ海峡封鎖で変わる世界地図—改めて問われる「成長投資」とは?
2026年04月17日

