東証の経過措置 薄氷の決定

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2023年02月17日

1月30日に東京証券取引所(東証)は、上場維持基準に関する経過措置の終了時期を市場が再編された2022年4月を起点とした3年後とし、その後、原則1年の改善期間を置く「3+1」年とする制度要綱を公表した。あまり知られていないが、経過措置の終了時期が議論された東証の諮問機関である「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(フォローアップ会議)の第7回(1月25日開催)の議事録を見ると、「3+1」年が満場一致だったわけではなく、終了時期を2022年4月から2年とする「2+1」年も有力な案として、白熱した議論が行われたことがうかがわれる。最終的に、東証がそれらの議論を踏まえて、1月30日に「3+1」年の制度要綱をパブリック・コメントに付した。

経過措置は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場という新市場の開始にあたり、市場第一部など旧市場に上場していた企業に適用されている措置である。新市場の上場基準が旧市場よりも厳しく設定されたため、旧市場の上場企業も継続して新市場に上場できるようにするための、いわば激変緩和措置である。時限的な措置であるものの、その存置期間は「当面の間」とされており、終了時期が明確ではなかったが、今回その時期が示された。東証によれば、2022年12月時点で、経過措置適用企業は3市場を合わせて510社であり(「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第七回 東証参考資料」(2023年1月25日))、全上場企業の13%にあたる。

冒頭の話に戻り、フォローアップ会議第7回の議事録に基づいて、経過措置の終了に関する議論の一端を見てみたい。まず、会議の最初に東証から「3+1」年の案が示され、それに基づいて、会議のメンバーからそれぞれの意見が示された。メンバーは9名おり、「3+1」年を支持したのが4名、「2+1」年を支持したのが4名で、明確に意見を示さなかったメンバーが1名いた。実は、フォローアップ会議第4回でも経過措置の終了時期に関する議論が行われており、その際は出席8名のメンバーのうち、「3+1」年を7名、「2+1」年を1名が支持していた。第7回で「2+1」年の支持派が大きく増えた格好である。

第7回の議事録を見ると、経過措置は早期に終了させるべきという認識は一致しているが、「3+1」年と「2+1」年の支持者は互いの意見を譲ることはなかった。「3+1」年の意見は、上場会社への周知期間や企業実務を考慮した考えである一方、「2+1」年の意見は、市場再編に向けた経過措置の概要が公表されてから既に2年経過しており、「2+1」年でも十分な周知期間になっているという考えである。結局、会議は両論が挙がったまま終了し、最後に東証が検討して決定するという方針が示され、先述の通り「3+1」年を内容とする制度要綱が発表された。

フォローアップ会議は決定機関ではないため、そこで合意が得られなかったことは問題ではないが、他の有識者会議と比べると、しっかりとした実質的な議論が行われたといえるのではないか。また、多くの企業の今後の行動に大きな影響を及ぼす制度であるため、議論の中身が議事録の公表で相当に透明化されていることも有意義であると思われる。それにしても、第7回会議でのそれぞれの案の支持者数のバランスからすると、「3+1」年というのは薄氷の決定であった。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史