人生の選択肢を広げるためのリスキリング

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2023年02月15日

人生は勉強の連続だ。小学校や中学校などの学校教育から始まり、社会人になっても仕事に必要な知識・技能を学び続ける。ベネッセコーポレーションの「社会人の学びに関する意識調査2022」によれば、「学びたいと思う層」と「学びたいと思わない層」はほぼ拮抗する状況のようだ(※1)。ただ「学びたいと思わない層」も、恐らく現実は「会社で新規プロジェクトにアサインされたのでその分野に関する文献を大量に読んだ」「会社で使っているシステムが刷新されたのでその機能や使い方を教わった」「お客様からの問い合わせで知らない単語が出てきたのでインターネットで検索した」等、日常の中で何か学び続けているはずだ。

こうした学びでは足りない、ということなのか、最近リスキリングというワードを耳にする機会が増えた。リスキリングは新しい仕事をするために学ぶこと、もしくは国や企業が国民や従業員に新しい仕事ができるようトレーニングをすることをいう。岸田政権の「新しい資本主義」には「『人への投資』の抜本強化」が盛り込まれており、2022年10月の臨時国会での所信表明演説では「個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、『五年間で一兆円』のパッケージに拡充」という言及がなされた。

リスキリングは世界的な関心事項であり、世界各国の指導者や経営者らが集まり議論する世界経済フォーラムの年次総会(通称、ダボス会議)では、数年前から毎回リスキリングが話題に挙がっている。問題意識は第四次産業革命(IoT・ビッグデータ・ロボット・人工知能等による技術革新)による劇的な産業構造や就業構造の変化に根差している。技術革新は新たな雇用も生む一方で、既存の雇用を喪失させる側面がある(これまで人が担っていた仕事がロボットやAIに置き換わる等)。技術革新の影響で職を失った労働者が新しい分野で働けるよう、新たなスキルを身につける=リスキリングが必要であるという。

国レベルとしてやるべきことは、産業構造の変化に必要な人材育成支援策を講じることだろう。企業レベルでは自社の将来の事業ポートフォリオの変化や、不要になる業務を予測し、現在その仕事をしている従業員が別の仕事にシフトできるよう、教育プログラムの提供等をすることが考えられる。

では、個人レベルでは何をすればいいのか。もちろん、会社が教育プログラムを提供してくれるのであれば、それを受け、将来に備えればいいのだろう。ただ、会社から「あなたの仕事は恐らく将来必要とされなくなるので、新しいスキルを身につけてください」と言われて「はい、わかりました」と素直に受け止められるだろうか。偶然、それが自分のやりたいことや、興味のある分野であればよいが、そのような幸運に恵まれる人ばかりではないだろう。最近は会社に頼らず、個人個人が主体的なキャリア形成を考える必要性も指摘されている。今後のキャリアを考え主体的にリスキリングをすることが、自分がやりたい仕事をする(もしくはやりたくない仕事をせずに済む)ことにつながるのではないか。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美