個人投資家向けの仕組債について
2023年01月16日
11月15日に開かれた日本証券業協会との意見交換会で、金融庁は、仕組債の組成コストの開示強化を検討するよう求めている(※1)。金融庁によれば、これは顧客本位の業務運営に基づく要請であり、同様の趣旨は金融審議会市場制度ワーキング・グループの顧客本位タスクフォースでも触れられている(※2)。
クーポンや償還価格、償還タイミングが株価などにリンクする仕組債がはやり出した1990年代半ばから、監督官庁も業界団体も、そしてもちろん証券会社を中心とした販売会社も、リンク対象の株価がどうなったら保有者はどのような影響を受けるのかを、どうすれば投資家に十分理解されるか、検討と工夫とルール作りを重ねてきた。
一方、最近金融庁が組成コストの開示というアプローチを取っているのは、個人投資家には選別が難しく、コストを開示することでその点をなんとかしたいということだろう。しかし、それで何か事態が改善するのかというと疑問だ。下手をすると、組成を担うホールセール業者と販売を担うリテール業者、その他管理などの周辺業者が取っているマージンに対し、それがどのような水準であろうと世間から反感を買いそうなだけで、仕組債の仕様が果たして購入を検討している投資家のニーズに合っているかという、もっと本質的な面には関心が向かわないのではないか。たとえば耐久消費財では製造コストがいくらかなど、公表が求められてはいない。
金融審議会は、顧客の立場に立った良質なアドバイスを提供する「認定アドバイザー」を制度として創設することを検討すべきという。しかし、コストや価格の妥当性を見極められるアドバイザーというのはかなり要求水準が高いし、彼らにどれだけの料金を払えば適切なアドバイスを受けられるのかも問題だ。投資家側に立つ業者ということなら、安さを売り物にした量販店のように、卸売の値段を叩いて薄利多売で利益を上げる、カウンターベイリングパワー(※3)の役割を果たす業態のほうがまだ機能するのではないか。
論者によっては仕組債を個人投資家に売るのは禁止するべきだと言っている(※4)。9月ごろの報道によれば日本証券業協会もそろそろ販売ガイドラインの改定案を公表するとのことである(※5)。仕組債の販売は長年証券会社や銀行のリテール部門に一定の貢献をしてきただけに、業界側としては正念場ではないか。
(※3)ジョン・K・ガルブレイス著 新川 健三郎訳、『アメリカの資本主義』、白水社、2016年を参照。
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