役員報酬制度とESG指標

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2022年12月21日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 小林 一樹

役員報酬にESGの取り組みを反映させる企業が増加している。例えばDow Jones Sustainability Indices(DJSI)のような外部機関の評価結果や、CO2排出削減量の目標達成度、従業員エンゲージメントの結果など、ESGに関する非財務指標の成果に応じて役員報酬の支給額を算定するものである。2022年3月に一般社団法人信託協会が公表した「ESG版伊藤レポート」(※1)においても、英国や米国と比較すると低い状況にあるものの、それでも日経225銘柄対象企業のうち、2割弱の43社で役員報酬制度にESG指標が反映されているという。役員報酬のそもそもの目的は中長期の業績および企業価値向上であるため、財務指標に重きをおいて支給額に反映させることが前提ではあるが、非財務指標であるESG指標の反映も、企業の中長期的な企業価値向上に資するものと考えられ、機関投資家も注目していることから、今後も採用企業の増加が見込まれる。既にESG指標の反映に取り組んでいる企業も多いのではないだろうか。

ただし、役員報酬にESG指標を反映することは簡単ではない。特にどの指標を選定するかという点が意外と難しい。例えば、ESGのうちE(環境)の代表的な指標であるCO2排出削減量は候補によく挙がる指標ではあるが、実は他社から供給された間接排出量が多く、自社努力による直接排出量の削減効果が目標達成に寄与しにくいため、役員報酬に結び付けづらいケースがある。また、従業員エンゲージメントのスコアも候補によく挙げられるが、そもそも現時点のスコアが高いのか低いのかよく分からない、どうすれば改善できるのか捉え切れていないという理由で、役員報酬に反映しづらいという声も聞かれる。様々な指標の可能性を検討してみるものの、どの指標も「帯に短し襷に長し」という結論になり、検討はしたものの役員報酬に反映することを取りやめることもある。

しかし、結果的に役員報酬に反映させないとしても、役員報酬制度を検討する過程で自社のESGの取り組みを一度振り返ることは有意義だと考えている。ESGの取り組みは、やや定性的で、短期的に成果が見えづらく、ブラックボックスになりがちである。これを、客観性や透明性が求められる「役員報酬の指標として耐えうるか」という視点から振り返ってみると、目標設定の曖昧さや、そもそも自社のマテリアリティ(重要課題)が明確になっていないという課題が洗い出されることがある。役員報酬へESG指標の反映を検討することで、改めて自社のESGの取り組みを振り返る機会としてみてはいかがだろうか。

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小林 一樹
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主任コンサルタント 小林 一樹