税制改正が企業の国内回帰を後押しする可能性

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2022年12月14日

年末に向けて税制改正の検討が佳境を迎えている。来年度の税制改正の主な項目には、NISAの拡充、相続税・贈与税や研究開発税制の見直し、インボイス制度の負担軽減などがあるが、報道によれば、国際課税ではいわゆるミニマムタックス(法人最低税率)が導入される見込みである(本コラム執筆時点で税制改正大綱は未公表)。これが導入されると日本企業の国内回帰を後押しする可能性がある。

ミニマムタックスとは、企業が外国に子会社等を設けている場合に、実際に負担している税率(実効税率)が15%を下回れば、本国の親会社に上乗せ課税を行うという制度である。収益額が7.5億ユーロ超の多国籍企業グループが対象である。1980年代頃から各国が企業誘致のため法人税率を引き下げてきた、いわゆる「底辺への競争」に歯止めをかけることが期待されている。

ミニマムタックスの対象となるのは、典型的には、いわゆるタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立することで課税逃れを行っている場合である。欧米ではこのような課税逃れが社会問題となっており、海外の研究者(※1)によるとタックスヘイブンへの利益移転による失われた法人税収の割合が、米国16%、英国32%、ドイツ29%、フランス22%と推計されている。

一方、日本企業は欧米企業ほど積極的な課税逃れは行っていないといわれ、タックスヘイブンへの利益移転による失われた法人税収の割合は、先ほどの推計によると3%とされている。しかし、ミニマムタックスはタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立する場合に限らず、企業誘致のため低い優遇税率を設定している途上国等に進出し、実体のある事業を行っている場合でも適用される(このような場合は、ミニマムタックスによる税負担を軽減する仕組みが設けられている)。そのため、日本企業でも、途上国等の優遇税率が適用されている場合に、ミニマムタックスの対象となり増税となる可能性がある。

企業が海外進出する場合、税負担だけでなく、その国の人件費、労働力の水準、物流、為替リスク等、様々な点を考慮したうえで意思決定が行われる。そのため、税負担が増大しても、直ちに既存の海外拠点の立地を変更することには必ずしもつながらないだろう。ただ、コロナ禍による国際的なサプライチェーンの分断や円安等を背景として、一部の日本企業の間で国内回帰の動きが見られており、中長期的にはミニマムタックスもその動きを後押しする可能性がある。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希