頑迷な「ゼロコロナ」政策は本格緩和へ ~2023年の中国経済は6%超の実質成長も~

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2022年12月12日

中国の頑迷な「ゼロコロナ」政策が本格緩和に向かっている。

2022年11月11日に国務院新型コロナウイルス感染症共同予防・制御機構が「新型コロナウイルス感染症の予防・制御措置を一段と改善し、科学的に的確に予防・制御活動を行うことに関する通知」を発出した。同通知では、①感染者の濃厚接触者に対する「7日間の集中隔離+3日間の自宅健康観察」の管理措置を「5日間の集中隔離+3日間の自宅隔離」に短縮する、②従来の高リスク・中リスク・低リスクの地域3分類を高リスク・低リスクの2分類に簡素化し、管理下に置かれる人々を最大限に減少させる、③PCR検査の対象をむやみに拡大させない、といった20項目の措置を発表した。

しかし、これらはあくまでも「ゼロコロナ」政策を堅持した上での、その行きすぎの是正であった。新型コロナウイルス感染症の新規感染者は、通知が出された直後の11月15日に上海市ロックダウン(都市封鎖)さなかの4月下旬以来の2万人超えとなり、同月23日に過去最多となる3万人を超え、さらに27日には4万人を超える急増ぶりとなった。こうした状況下で「ゼロコロナ」政策はむしろ強化されると懸念された。

ロックダウンや行動制限により、生活に困るのは一般市民である。10月の党大会前後から「ゼロコロナ」政策への不満は隠しようがなくなり、11月下旬には広州市や新疆ウイグル自治区、上海市、北京市など多くの都市で抗議行動が確認された。党大会と党人事で、最高指導部を自らの腹心で固め、3期目に突入した習近平氏にとって、こうした下からの突き上げは衝撃であったに違いない。習近平政権は「ゼロコロナ」政策の本格的な緩和に踏み切らざるを得なくなったのである。

政府当局は12月7日に、「新型コロナウイルス感染症の予防・抑制措置の実施をさらに最適化することに関する通知」を出し、10項目の措置を発表した。具体的には、①高リスク区の設定・認定は、建物や職場、フロア、世帯単位とし、みだりに範囲を拡大してはならない、②行政区全体の住民を対象としたPCR検査は実施せず、その範囲を縮小し頻度を減らす。老人ホーム、福祉施設、医療機関、託児所、小中学校など除き、PCR検査の陰性証明の提示と健康コード(行動履歴)のチェックを行わない、③感染者のうち無症状者や軽症者は自宅隔離を行い、症状が重くなった場合は医療機関で治療する、などであった。11月の段階では濃厚接触者も施設などでの集中隔離が求められていたことからすると、大幅な緩和といえる。12月の通知では、もはや「ゼロコロナ」という言葉は使われていない。

これから中国は「ゼロコロナ」から「ウィズコロナ」への正念場を迎えることになる。防疫体制を緩めれば新規感染者が急増する可能性は高まる。だからこそ無症状者や軽症者は施設・医療機関での集中隔離から自宅隔離に切り替え、限りある医療資源を重症者に集中させようとしているのであろう。

大和総研は2023年の中国の実質GDP成長率を前年比4.5%程度と想定しているが、「ウィズコロナ」への転換が早期に実現すれば、過去3年分のリベンジ消費を牽引役に、同6%超の成長も期待できる。その一方で、亡くなる方が急増するなどして「ゼロコロナ」政策への揺り戻しが起これば同3%成長もあり得る。その分水嶺を今まさに迎えようとしているのではないだろうか。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登