米国の景気後退はポジティブ?ネガティブ?

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2022年12月02日

この1年間、米国経済はずっと景気後退懸念にさらされてきたが、足元の経済指標を踏まえれば、2022年内の景気後退は避けられそうである。その一方で、11月のFOMCの議事録から、これまで景気後退をリスクシナリオと位置付けていたFOMCスタッフが、2023年中に米国経済が景気後退に陥る可能性をほぼ50%と分析していることが明らかになり、市場で話題を呼んだ。2023年はいよいよ景気後退に備えなければいけないのかもしれない。

景気後退というと、ネガティブなイメージが強い。失業率が上昇することで、人々の生活は苦しくなる。また、株価が落ち込むことで人々の資産は減少し、消費余力は一層落ち込む。景気後退に伴う痛みは、財政政策や金融政策によって緩和されることが一般的である。しかし、高インフレに悩む米国経済において、FOMCが金融引き締めから金融緩和へと政策を急転換するハードルは高い。また、財政政策に関しても、11月の中間選挙の結果、ねじれ議会となったことで、2023年の議会における法案成立の難易度は高まる。いざ景気後退に直面した際に、必要な財政・金融政策が遅れる可能性があるだろう。

他方、景気後退をポジティブに捉える向きもある。景気後退は景気サイクルにおける一つのプロセスであり、景気後退に陥った後には景気拡大へと転じる。とりわけ、市場の一部では、足元のような低成長が続く中で景気後退に対する不安心理が長引くよりも、景気後退に陥ることで景気拡大の始まりや株価の底打ちを期待する声もある。とはいえ、景気後退に陥るかどうかの見通しは困難な中で、景気後退の期間や程度に関する予想は一層難しい。単純な株価の底打ち期待のために、景気後退を願うのは軽率といえるかもしれない。

もっとも、新たな景気サイクルにおけるビジネスチャンスの拡大を期待することは可能である。過去を振り返れば、景気後退前後に次世代を担う商品・サービスが登場し、利用が急速に拡大した例は枚挙にいとまがない。2008年のリーマン・ショック前後では、2007年のiPhoneの登場、2008年のAirbnb創業、2009年のビットコインの誕生などが代表事例だろう。また、コロナ禍においても、ZoomやNetflix、Uber Eatsなど非対面サービスの利用が爆発的に進んだ。こうした次世代の商品・サービスの登場・普及は、景気後退自体ではなく、テクノロジーの発達など複雑な要因が絡み合って生み出されたものである。しかし、景気後退によって既存のビジネスが困難に直面したことで、新たなビジネスが登場し、利用が拡大する空間が生まれたともいえる。

足元でも、次の景気サイクルに向けた、ビジネスチャンスの拡大の兆しが見られる。巨大IT企業を中心に解雇やレイオフが始まっているが、その他の産業やベンチャー企業では、優秀な人材を雇用するチャンスが増えたという声も出始めている。米国経済のダイナミズムを踏まえれば、たとえ2023年に景気後退を迎えたとしても悲観一色になるべきではない。むしろ、米国経済の新たな担い手に目を向けるポジティブな視点も必要ではなかろうか。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐