グローバルな金融ルールと地域の特性
2022年11月21日
1990年代、日本ではいわゆるバブル経済が崩壊し、金融機関は巨額の不良債権を抱えることとなった。特に1997年以降、大手金融機関を含めて金融機関の破綻が相次いだが、日本の政府・当局では、日本発の世界恐慌の引き金は絶対に引かない、ということが方針とされた。この方針の下、預金はもとより金融機関の保有する債務全体を保護し、金融機能の確保を図るため、必要な法制度の整備や70兆円にも及ぶ公的資金枠の設定、大手金融機関の国営化などあらゆる手段が講じられた。
自国発の世界恐慌は引き起こさないというこの方針は、その後必ずしもグローバルに受け入れられることとはならなかった。2007年に米国で発生したサブプライム・ローン問題に端を発して、2008年にはリーマン・ブラザーズが支援を与えられることなく経営破綻し、世界的な金融危機が引き起こされることになる。日本の金融機関は、欧米の金融機関とは異なりサブプライム・ローンなどの保有は限定的で、日本の金融システムの健全性が揺らぐことはなかったが、実体経済面での影響や金融市場の混乱は日本にも及ぶこととなった。
やがて、危機により金融システムに深刻な影響を受けた米国や英国などの主導で、危機後の新しいグローバルな金融機関監督の枠組みづくりが本格化していくが、そこでは、金融機関に資本の大幅な積増しを求めることが最大の論点とされた。これは、金融機関のリスク対応力を高める上では有効でもある。だが一方で、リスクテイクの度合いがさほどではない金融機関にまで一律に過大な資本の積増しを求めることは、それによって生じる資本コストの増大を賄うに十分な収益を確保するため、金融機関に、かえって無理なリスクテイクを行わせることにもなりかねない。このため、日本の当局は、各国金融機関のビジネスモデルの違いを考慮したルール策定の重要性を主張することとなった。
グローバルなルールと地域の特性とのせめぎ合いは、今も別の形で続いているようにみえる。気候変動対応に関連して、EUではグリーンな経済活動に関するEUタクソノミーが策定され、それに則してグリーン分野への資金のシフトを誘導する手法が取られてきている。しかし、日本では、グリーンか否かの二元論による手法だけでは2050年のネットゼロに向けて有効な手段とはなり得ないと考えられており、脱炭素化までの移行の期間において、現時点で脱炭素化が困難な部門においても低酸素化の取組みが確実に進められていくよう、金融機関が資金面を含めて必要な支援を行っていくことが重要な課題であるとされている。
EUが主導するグローバルな議論では、これまでこうした発想に必ずしも十分な理解が得られてこなかったきらいがあるが、大事なことは、2050年ネットゼロの目標を各国が責任をもって履行することであるはずだ。そのためにも、履行に向けた具体的な手法については、地域の特性に応じてそれぞれに最適なものが選択されていくべきだろう。
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専務理事 池田 唯一
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