株主還元強化・資本効率の改善を目指す上場会社が増えそう

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2022年11月18日

2022年4月の東京証券取引所(東証)の市場再編から半年余りが経過した。新聞・雑誌などの報道を見ると、市場再編の成果が現れつつあるという記事もあるにはあるが、どちらかといえば改革の成果を疑問視する記事の方が多いように感じる。確かに、市場全体の時価総額や流動性などに顕著な変化は見られていない。

しかし、これまで積極的な株主還元や資本効率を意識してこなかったようにみられる上場会社からも、配当性向の引き上げやROEの向上を目指した施策が開示され始めている。今後、そのような上場会社の動きが盛んになるのではないかと見通している。

その一つ目の理由は、2022年4月決算会社から上場維持基準の判定がスタートしているからである。各上場会社は上場維持基準に抵触しないように、また仮に抵触した場合には速やかに改善するように、株主還元や資本効率を意識した経営の必要性を改めて強く認識するようになっていると思われる。

上場維持基準は市場再編前の上場廃止基準に相当するものであり、基準値は以前よりもかなり引き上げられた。例えば、市場第一部の上場廃止基準では流通株式時価総額は5億円未満とされていたが、プライム市場の上場維持基準は100億円以上である。もっとも、市場再編前からの上場会社には経過措置が用意されている。上場維持基準に抵触しても「上場維持基準の適合に向けた計画」(計画書)を開示し、適合に向け取り組んでいる状況を開示すれば「当分の間」は上場が維持される。

4月から10月末までの上場維持基準の判定の結果、新たに計画書を開示した上場会社が31社現れている。抵触する項目は流通株式時価総額23社、流通株式比率8社、時価総額2社である(複数の基準に抵触する会社があるため合計は31社とならない)。周知の通り、上場会社の決算は3月や12月が多く、決算結果から多数の会社が判定される。判定で基準をクリアするための施策として、あるいは基準に抵触した場合に策定・開示する計画において、株主還元や資本効率を意識した経営の意向を投資家に示す動機が強まっているだろう。

二つ目の理由は、市場再編の実効性を向上させるために東証が設置した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」において、継続した改革の必要性が盛んに議論されているからである。現時点で3回の会議が開催され、市場の新陳代謝を促す方策が毎回議論されている。

例えば、PBR1倍割れの会社がプライム市場の半数を占める中で、該当する会社には改善に向けたロードマップの開示を求め、それに基づいて投資家と対話するというPDCAを回すことなどが案として出ている。「当分の間」とされている経過措置の終了期限については、速やかに方針を決定して明らかにするというメンバー間でのコンセンサスが窺われ、一定期間を経て終了させる案などが出ている。議論の内容は2022年の年末から2023年の年初を目途にまとめられる模様である。

以上の二つの理由から、上場会社は変化することを今まで以上に求められる方向にあるといっていいだろう。また、上場会社側にも、能動的に変わろうとする潮流が生じつつある。東証の市場再編に対してはネガティブな評価も聞かれるが、上場会社の最近の動向をつぶさに見れば、その変化は確認できる。投資家にとっては良い投資機会が広がっていくことになるだろう。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史