「異質な日本経済」は転機を迎えられるか

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2022年10月27日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

1ドル150円台に乗せた円安進行の最大の原因は、内外の金融政策格差である。世界が政策金利の引き上げを急ぐ中で、日本だけがマイナス金利政策を維持するという「異質さ」がもたらしたものといえる。拙速な金融政策変更は様々なリスクを招く懸念もあるが、マイナス金利政策を永遠に続けることができないことは確かだ。

現在の異質な金融政策に至ったのは、日本経済全体に世界と少し異なる面があるからに他ならない。端的にいえば、長く続いた低インフレ(時にデフレ)・低成長(時にマイナス成長)である。人口減少・高齢化に起因する面もあるが、90年代に入ってからの約30年間ですっかり人々の意識に定着したデフレマインドが悪影響を及ぼしているように感じる。

デフレマインドの定着を背景に、リスクマネーの供給は細くなった、言い換えれば投資不足に陥ったことも異質さの一つととらえられる。資本主義経済においてリスクマネーの供給が不足することは、血液が不足するのとほぼ同義であり、低成長を助長する悪循環が起きている格好だ。

もちろん、日本人のデフレマインドが全ての元凶だと言う気はない。例えば、起業の動きが他国より鈍いことが頻繁に指摘されるが、それはまた別の意識に起因する面もありそうだ。幼少期から「協調性」を求められ続けた結果、欧米の資本主義経済の原動力ともいえる「アニマルスピリット」が極端に抑え込まれている可能性はないだろうか。会社組織などのコミュニティにおいて、開放的で外向き志向な欧米に対して、日本は内向き志向のイメージが強いことも、その表れかもしれない。

結局、異質な日本経済を形作っているのには複雑な背景がある。ゆえに異質さを政策的に変えようとしても簡単ではないことは、この20~30年の経験からも明らかだ。ただし、ここに来ての物価高が、もしかしたら人々のデフレマインドに変化をもたらす力を持っているかもしれない。「物価は上昇する」ことが前提となれば、賃金も上昇しやすくなり、長短金利もプラス圏で形成されるようになるだろう。同時に、「投資」に対する積極性が増す期待も生まれよう。

こうした変化を後押しするため、逆説的かもしれないが現下の円安を積極的に活用したらどうだろうか。円安は輸出やインバウンド、越境ECといった分野には確実にプラスに働く。これまで海外販路の拡大を図ってこなかった中小企業や農業生産者に対しても、政策的な後押しはできないだろうか。そうすれば、比較的広範囲に円安のメリットが享受でき、成長・拡大を実感できる分野が増えるはずだ。あわよくば、内向き志向を変化させる効果も期待できるかもしれない。

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保志 泰
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