経営人材の育成と人材戦略

~コーポレートガバナンスと人的資本の観点から~

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2022年10月25日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 元秋 京子

企業経営におけるサスティナビリティの重要性の高まりを受けて、企業価値向上と紐づく人材戦略が注目されている。従業員の育成・最適配置・研修等はもちろんだが、価値創造の源泉となる人材については改めて広くとらえて考えたい。コーポレートガバナンス・コードでは、経営トップや経営陣の選解任・後継者計画が企業の重要事項とされているが、従業員の人事領域とは異なる次元でとらえられてきた。

企業では役員と従業員は区分され、各々を主管する部門も異なるため、情報共有が分断されていたりする。しかし、企業価値と紐づけて考えるならば、役員も含めた人材戦略の全体像を描くことが望ましい。少なくとも各々の主管部門では、一貫した考え方のもと、主要な方針や候補者・レイヤー別の育成状況等を共有し、整合感をもって取り組むことが重要となる。

コーポレートガバナンス・コードでは「後継者計画」、人材版伊藤レポート2.0では「サクセッションプラン」、金融審議会のディスクロージャーワーキンググループ報告書では「人材育成方針」等の表現があるが、企業における中長期的な企業価値向上やコーポレートガバナンス方針等を踏まえて、経営人材の育成を含めた人材戦略を検討し、取り組むことが望ましい。

東京証券取引所の集計によると、コーポレートガバナンス・コードにおける補充原則4-1③「後継者計画の策定・運用」の遵守率は、プライム市場は8割、スタンダード市場は5割となっている(2022年7月時点)。当該コードは特に開示義務はないため、企業の取り組み内容を把握することはできないが、遵守している企業であっても、経営トップ・経営陣の後継者計画を具体的かつ明確に定めているケースは少ないと思料する。

任意に開示している企業事例(後継者計画・人材戦略等)を見ると、①経営トップの後継者、②取締役の後継者、③最重要な執行ポジションの後継者、④グローバルリーダーの後継者、④将来の経営人材候補の人材プール、⑤経営人材育成プログラム(世代別)の運用、等を重要なキーポイントとして各社独自の育成方針を示しており、参考としたい。

前述の事例に関連して、取締役会の監督機能を持続的に発揮するボードサクセッションの視点から、取締役会のスキルマトリクス・役員に求める要件・資質等を踏まえて、従業員の段階から早期に育成することも考えたい。専門的な執行機能の強化も求められており、企業の戦略に沿った執行集団を持続的に輩出するしくみについても、人材戦略の中で検討できると良いだろう。

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マネジメントコンサルティング部

主席コンサルタント 元秋 京子