世界景気悪化と物価高の下で個人消費は回復するか

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2022年10月19日

政府の観光需要喚起策である「全国旅行支援」が2022年10月11日から実施された(東京都では10月20日から実施)。期限は12月下旬とされているが、報道によると、政府は2023年も継続する方向で検討している。

全国旅行支援の割引額は2020年後半に実施されたGo To トラベルを下回るものの、割引率では5%ポイント上回る。観光庁によると、Go To トラベルの支援実績は1人泊あたり約6,150円であったため、割引額が下がることの影響は限定的とみられる。むしろ割引率が引き上げられたことで、実際の恩恵は今回の方が大きくなるかもしれない。2023年1月以降も実施されれば、全国旅行支援の経済効果はGo To トラベルを上回るとみられる。

サービス消費は新型コロナウイルス感染拡大前の水準を依然として下回っており、回復余地は大きい。感染「第7波」が収まりつつある中、全国旅行支援などもあって個人消費は回復に向かうだろう。足元では約30年ぶりの高インフレが発生し、実質賃金が下落しているものの、大幅に積み上がった家計貯蓄を取り崩すことで個人消費への影響は抑えられるとみられる。さらに、政府は物価高対策として2022年9月に住民税非課税世帯に対する5万円の給付を決めた。年末に期限を迎えるガソリン補助金は2023年1月以降も継続し、2023年春に想定される電力料金の上昇による負担増を1月以降のできるだけ早い時期に軽減する方針である。

今後の個人消費について気がかりなのは回復のペースだ。世界景気の悪化と物価高が同時に進行していることで、家計は購買力があっても先行き不透明感の強まりから支出拡大に慎重になり、個人消費は緩やかな回復にとどまる可能性がある。

満20歳以上の個人を対象に日本銀行が実施している「生活意識に関するアンケート調査」によると、1年後の景気を尋ねた「景況感D.I.」(「良くなる」との回答割合 - 「悪くなる」との回答割合)は、直近の2022年9月調査において2020年3月以来の低水準となった。欧米などで景気後退懸念が強まっていることなどが背景にあると考えられる。また、商品やサービスを選ぶ際に特に重視することを尋ねた質問では「価格が安い」との回答が最も多く、回答割合は4四半期連続で高まった。

こうした中で個人消費の円滑な回復を促すためにも、政府は外部環境の悪化に適切に対応するとともに、「新しい資本主義」実現の取り組みを加速させて家計の所得見通しを改善させる必要がある。また、欧米のようにコロナ前に近い生活を早期に取り戻し、対面や移動の機会を増やすことも重要である。その上では、オミクロン対応ワクチンの普及や新型コロナウイルスの感染症法上の扱いの見直しなどが喫緊の課題だ。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司