中間選挙での「ねじれ議会」と米国社会の分断

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2022年10月04日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

11月8日に実施される米国の中間選挙まで、残り1カ月余りとなった。バイデン大統領の支持率は、就任以降の低下傾向に歯止めが掛かったが、40%強で低空飛行が続いており、民主党は引き続き苦戦を強いられている。

選挙予想に定評のある米国の政治誌、クック・ポリティカルレポートで本稿執筆時点(9月30日時点)の選挙戦の状況を確認すると、上院では改選対象の35議席のうち、民主党優勢が13議席、共和党優勢が19議席と予想されている(残り3議席は拮抗)。非改選議席と合わせると民主党優勢が49議席、共和党優勢は48議席であり、どちらが過半数を獲得してもおかしくない状況だ。他方、全議席が改選対象となる下院では、435議席のうち共和党優勢が212議席、民主党優勢が192議席、残りの31議席が勢力均衡とされており、共和党が過半数を獲得する可能性が高まっている。各種世論調査などを見ても、下院においては総じて共和党がリードしている。こうした予想通りの結果となれば、「ねじれ議会」となることで、バイデン大統領の残り2年の任期の政策運営はこれまで以上に難しくなる。

もっとも、過去を振り返ると議会でねじれが発生することは決して珍しいことではない。1981年以降の42年間で見れば、大統領および上下両院の多数党が同一政党であったのは12年間(1993-94:クリントン、2003-07:ブッシュJr、2009-10:オバマ、2017-18:トランプ、2021-22:バイデン)にすぎない。残りの30年間は上院と下院で多数党が異なる「ねじれ議会」(14年間)、もしくは、大統領所属政党ではない政党が上下両院で多数党となる「分割政府」(16年間)であった。

もちろん、大統領と上下両院の多数党が全て同じ政党であれば、議会を通じた意思決定プロセスは迅速に進む可能性が高い。だが一方、超党派での議論がおろそかになり、政策は偏ったものになりやすい。実際、バイデン大統領がこれまでの2年間で実行した政策を見ても、大規模経済対策である「米国救済計画法」や、気候変動対策を主な内容とした「インフレ抑制法」は、財政調整措置を用いて民主党単独で成立させている。仮にこの「トリプルブルー」の状況が長く続けば、その後の反動や揺り戻しが大きくなる可能性が高まるだろう。中間選挙の結果、議会での共和党勢力が強まるとすれば、それは二大政党制が続く米国で民主主義が正しく機能していることの表れであり、むしろ健全な状態にあると評価すべきではないか。

バイデン大統領は2020年の大統領選挙において、トランプ政権下で深まった米国社会の分断解消を目指すと主張していたが、分断は解消するどころか一層深まっているように見える。民主党が中間選挙で上下院のいずれか、ないし両方で過半数を失うことは、バイデン大統領にとって痛手であることに間違いはないが、それをきっかけに超党派での議論を活発化することが分断解消のためには重要と思われる。

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橋本 政彦
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