財政の大盤振る舞いが残す禍根

RSS

2022年09月29日

ロシアによるウクライナ侵攻から7ヵ月が経過し、ウクライナの反攻等戦局に変化が生じているものの、依然として事態は収束の目途が立っていない。また、ロシアへの経済制裁、そしてロシアによる報復措置によって増幅されたエネルギーや食料品を主因とする高インフレとの戦いについても、中央銀行が3ヵ月ごとにインフレ見通しを(もっぱら上振れ)修正し続けているのが実情だ。

高インフレに対して、欧州では中銀が金融引き締めを実施する一方、EUや各国政府はエネルギー危機に対して様々な施策を検討している。例えば、EUは、ロシア産原油・石油製品に続いて、ロシア産天然ガスにも実質的な上限価格を設定しようと目論む。だが、そもそも需要超過の下で、一部の需要者が一方的に価格を引き下げようとする試みがうまくいくとは考えにくい。供給者は、より高い値段で購入してくれる人に売るのが自然である。実際、ロシアは非友好国には不売の方針だ。

上限価格導入の即効性や実現性に疑問があるのに対して、本格的な冬の寒さを前に、各国政府はそれぞれの事情に応じて、家計や企業向けの支援策に力を入れている。ただ、それもあまりに張り切りすぎると逆効果になってしまう恐れがあり、端的な例が、昨今市場を大混乱させている英トラス政権の大盤振る舞いであろう。

家計や企業向けの時限的な光熱費支援策に次ぐ経済対策だが、トラス首相が保守党党首選で減税の実施を強く主張していたことから、それ自体にサプライズはないはずだった。だが、抽象的なアピールを具現化したところ、債券安・通貨安・株安のトリプル安を招き、英国内にとどまらず、グローバルに混乱が波及した市場の反応を見る限り、評判は芳しくない。

過去50年で最大といわれる減税策の内容は割愛するが、市場の反応を分かりやすく言えば、トラス首相が“絵に描いた餅”を実際に割って中身を見せたところ、デカ盛りのあまりのカロリーオーバーに驚いて、食べた後の胃もたれ・胸やけにとどまらず、将来病気になるリスクも心配して食欲を失ったというところか。

BOEの利上げ発表翌日というタイミングの悪さも影響したのかもしれない。つまり、高インフレを抑制するために金融を引き締めた(ブレーキを踏んだ)横で、需要を喚起してインフレ率を押し上げる(アクセル全開)政策のちぐはぐさが目立ってしまった。BOEは、需要が強くて高インフレが続けば金融引き締めを強化すると示唆しており、経済対策発表が大幅な金利先高観(利上げ幅の急拡大)に結び付いている。そして、通貨安は、輸入インフレを通じて国内インフレを高止まりさせよう。さらに、通貨防衛のために緊急利上げが必要と、まるで新興国のような話まで聞こえてくる。また、財政赤字の膨張は過度な金利上昇を招く恐れがあり、今般の金利急上昇を受けて、公的部門の利払い負担が一段と増えると予想される。政府は、借入コストの増加という分かりやすいブーメランに直撃されるわけだ。

その意味では、政府が住民税を納めていない層(非課税世帯、約1,600万世帯)に5万円を給付する一方で、中銀が長期金利を一定水準に抑えようと頑張る日本のポリシーミックスの方が分かりやすい。だが、もし中銀が予告なしに政策を変更したら、国民が当局を深く信頼していた反動もあり、(金利上昇の影響が広範囲に及ぶため)利上げ反対のデモには国葬反対よりも多くの人が集まり、話が違うとロシアの動員令並みの騒ぎになるかもしれない。ちなみに、欧州のほとんどの国では、コロナ禍で膨らんだ政府の債務残高(対GDP比)が2022年4-6月期にかけて縮小傾向にあるが、日本は膨張し続ける稀有な国である。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

近藤 智也
執筆者紹介

政策調査部

政策調査部長 近藤 智也