「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」と「監督指針」改正

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2022年09月27日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

いよいよ、日本においても、ESG投信を取り扱う資産運用会社に対し、何らかの「規制」が定められそうである。

金融庁は、8月末に公表した「2022事務年度 金融行政方針」にて、次のように述べている。

「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待(中略)や国際的な動き等も踏まえ、各資産運用会社における適切な態勢構築や開示の充実等を図るため、2022年度末を目途に⾦融商品取引業者等向けの総合的な監督指針を改正する。」

こうした動向の発端の一つと考えられるのが、金融庁が5月下旬に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」で示された調査結果である。曰く、2021年10月末時点の 「ESG投信」(37社・225本)を調査したところ、11社(30%)にESG専門部署・チームがなく、14社(38%)にESG専門人材が一人もいなかったという。

来る「⾦融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正の行方を占うにあたっては、同レポート内の、「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」が参考になろう。

ここで金融庁は、総論にて「運用プロセス・アプローチの一層の強化を継続的に図るとともに、顧客が投資判断を適切に行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、明確な説明や開示を行うべきである」と述べたうえで、①組織体制、②ESGインテグレーション、③ESG評価・データ提供機関、④スチュワードシップ活動、⑤開示、⑥外部委託、の6項目について、それぞれ「期待」をまとめている。

今後、金融庁は、こうした「期待」に基づき、資産運用会社と議論を重ねたうえで、「監督指針」の改正内容を決定していくことが予想される。ただし、その場合、「監督指針」の改正は、先行するEUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)(※1)のような細かなルールの導入をもたらすものとはならないだろう。

なお、ここでいう「監督指針」の改正の影響が、ESG投信の販売会社にまで及ぶか否かについては、現段階では定かではないように思われる。

もっとも、プロダクトガバナンスの観点からすれば、販売会社にも何らかの形(顧客に対する十分かつ合理的な説明等)で資産運用会社への協力が求められるようになる、と考えるのが自然だろう。

そのように考えたときに参考になりうるのが、MiFID II(※2)の改訂(8/2適用開始)である。この改訂は、投資助言業者及び(金融商品の)販売会社に対し、顧客のサステナビリティに関する選好をヒアリングすることを義務付けている。

そのため、ESG投信の販売会社としては、「監督指針」の改正の内容として、これに類似するものが盛り込まれる可能性を意識しておくべきかもしれない。

(※2)EU版の金融商品取引法である“MiFID: Markets In Financial Instruments Directive”(2007年11月施行)の改定版をいう。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光