気候変動リスクを踏まえた事業活動を行っていくためには

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2022年09月20日

2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで、東京証券取引所(東証)プライム市場上場会社はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに沿った開示を求められている。また、東証プライム市場上場会社に限らず、上場会社の提出する有価証券報告書でも、TCFD提言やISSB(国際サステナビリティ基準審議会:新たな国際的・統一的なサステナビリティ情報の開示基準を作るために設立された機関)の基準を参考にサステナビリティ情報の開示を義務化することが提案されている(※1)。

ここで参考にされているTCFD提言やISSBの基準案で共通して開示が推奨・要求されている事項の一つとして、「インターナルカーボンプライシング(ICP)」が挙げられる。

ICPとは、各企業の内部で決められた炭素の価格のことを指す。外部機関の排出権価格や同業他社の設定価格などを参考に、企業の裁量によって、例えばCO2の排出量1トン当たり○円、という価格付けをするといった具合である。このICPは何のためにどのように利用され、また、なぜICPの開示を行う必要があるのだろうか。

ICPは気候変動リスクを見える化するとともに、そうしたリスクを踏まえた企業の意思決定や、リスクを軽減するための活動の促進のために利用される。近年、企業は特に気候変動リスク(例えば、将来的に厳しい炭素税が課され、脱炭素が進められないと税負担がかかるなど)への対応を迫られている。そのため、事業活動を行う上でもこうしたリスクを踏まえたプロジェクトの選択を行うことが考えられるが、リスクを定量化することは難しい。

ICPの導入により、企業は、「このプロジェクトは○トンのCO2を排出することが想定されるから、ICPを掛けると○円のコストがかかる」といったように、事業活動による炭素排出量を基にリスクを定量化し、コストとして捉えることが可能となる。このコストを事業活動から得る収益から引くことで、気候変動リスクを踏まえたプロジェクトの価値を認識し、脱炭素を考慮した意思決定をすることができるようになる。また、コストを見える化するだけでなく、実際にこのコストを回収し、脱炭素の活動に充てることも考えられる。

こうしたICPの活用状況を開示することによって、投資家などに向けて、気候変動リスクを考慮した経営を行っていることを示すことができる。もちろんICPは単なる投資家へのアピールではなく、上記の通り脱炭素に配慮した企業の意思決定にも有効である。ICPの活用はわが国でも広がりつつあるが、国際的な開示基準でICPの開示が推奨・要求されていることも勘案し、まだ活用していない企業は導入・検討を進めてみることも一案ではないだろうか。(※2)

(※1)ISSBの基準や有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示について、詳しくは拙著「企業の気候変動情報の開示に関する国際的な基準案が公表」(2022年4月22日、大和総研レポート)、拙著「ディスクロージャーワーキング・グループ報告(サステナビリティ情報の開示拡充)」(2022年6月20日、大和総研レポート)を参照。
(※2)ICPの導入や検討の際には、環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン ~企業の低炭素投資の推進に向けて~」(2022年3月更新)などを参考とすることが推奨される。

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藤野 大輝
執筆者紹介

金融調査部

研究員 藤野 大輝