米国:QTがもたらす10年-2年米国債利回りスプレッドの逆イールド化
2022年09月01日
10年-2年米国債利回りスプレッドは7月以降逆イールド状態となっており、米国経済が近い将来景気後退に陥るのではないかとの懸念が市場で飛び交っている。個人消費が底堅いとはいえ、FRBの金融引き締めを背景に住宅投資や設備投資は落ち込み、実質GDP成長率が2四半期連続でマイナス成長となったことを踏まえれば、こうした逆イールドの常態化も不思議ではない。
もっとも、こうした逆イールド現象はFRBのバランスシート政策の影響を強く受けている可能性がある。昨年11月のテーパリングから始まり、今年6月から開始されたバランスシート縮小(QT)に関して、FRBの残存期間別国債保有残高を見ると、1年以上5年未満の減少幅が大きく、次いで5年以上10年未満となっている。他方で、1年以上5年未満及び5年以上10年未満の保有減を受け、一部資金が流れ込んだ91日-1年未満の国債の保有残高は増加している。また、FRBは保有する国債の残存期間構成が過度に短期化せず、市場に中長期の成長資金を供給できるよう、10年以上の国債保有を増やしている。つまり、QTが進む中で、需給面の観点から、FRBの保有が減少している2年債に関しては金利上昇圧力が強まる一方で、10年債に関しては金利低下圧力がかかりやすくなる。
バランスシート政策が金利にもたらす影響は、タームプレミアムに表れやすい。タームプレミアムとは、一般的に残存年限の長さに伴う上乗せ金利とされ、通常は10年債のタームプレミアムが2年債のそれを上回ることが多い。しかし、昨年11月のテーパリング開始以来、10年債のタームプレミアムが2年債を下回る逆転現象が発生している。10年-2年米国債利回りスプレッドの内訳(期待短期金利スプレッド、タームプレミアムスプレッド)を見ると、タームプレミアムスプレッドのマイナス分が10-2年米国債スプレッドの逆イールド化を促進している。
QTも金融環境の引き締めをもたらし、景気を抑制するという意味では、タームプレミアムを含めて景気後退シグナルの一部として考慮することに妥当性はある。しかし、QTが国債の需給面に強く作用し、逆イールドを発生しやすくしてしまっている点は、QTが実施されていなかった過去の逆イールドとは区別する必要があるだろう。とりわけ、9月以降はQTのペースが加速することで、タームプレミアムのマイナス幅を深掘りし、逆転現象は長期化する可能性があることから、10年-2年米国債利回りスプレッドを景気後退シグナルとして捉えることは、一層の慎重さを要することになろう。こうしたQTの影響を一旦除いたうえで、景気後退の可能性を考えるのであれば、短期金利の将来的な軌道を示す期待短期金利スプレッドや10年-3ヵ月米国債利回りスプレッドなどを併せて確認してもよいかもしれない。なお、期待短期金利スプレッドも10年-3ヵ月米国債利回りスプレッドも、景気後退期に逆イールド化する傾向があるが、足下はプラス幅が縮小している一方、少なくとも逆イールド化はしていない(8月23日時点)。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
主任研究員 矢作 大祐
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