企業が取り組み始めた従業員エンゲージメントの向上

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2022年08月23日

最近、従業員エンゲージメント調査(エンゲージメントサーベイ)を実施する企業が増えている。証券市場でエンゲージメントといえば、投資家と投資先企業が対話を通じて相互に理解を深め合うことを指すが、従業員エンゲージメント調査のエンゲージメントは社員の(勤務先企業に対する)共感や帰属意識、貢献意識を指す。似た言葉でワーク・エンゲージメントがあるが、こちらはオランダにあるユトレヒト大学のSchaufeli 教授らが提唱した概念で、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った、ポジティブで充実した心理状態を指す(※1)。仕事に対しての心理状態であり、勤務先企業に対する共感や帰属意識、貢献意識は含まない。

従業員エンゲージメントを高めることで、生産性の向上や離職率の低下などにつながると言われており、従業員エンゲージメント調査を実施した企業は、その結果を踏まえて、従業員エンゲージメントを高める施策を講じている。企業によっては、調査結果の概要や具体的な取組内容を統合報告書等で開示して、エンゲージメントスコア(調査結果をスコア化したもの)の目標を設定している。

「従業員エンゲージメント調査」の質問項目は各社で異なるが、代表的な質問項目として米GALLAP社の“Employee Engagement Survey”の12項目がある。「自分に何が期待されているか理解している」「自分の上司や同僚は一人の人として自分のことを気にかけてくれている」「過去1年の間に自分の学びや成長につながる仕事をする機会を得られた」といった質問内容で、この12項目を基に同社が実施した調査によれば、日本は仕事や職場に対する関心、熱意を持つ従業員の比率が5%であり、世界全体の21%に比べると低い結果であった(※2)。

経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」(人材版伊藤レポート2.0)においても、経営戦略の実現に向けて社員が能力を十分に発揮することが必要であり、従業員エンゲージメントの把握、分析を行うことや、従業員エンゲージメントを高める施策としてストレッチアサインメント(スキルや経験に鑑みて、簡単に達成できないハードルの高い仕事を割り当てること)や、広いポジションについて公募制を導入すること、副業・兼業等の多様な働き方を推進すること、健康経営への投資に取り組むことを提案している。終身雇用や年功序列という日本型の雇用慣行が失われつつある中、働く側の意識にも変化が生じており、内閣府の調査によれば「できるだけ転職せずに同じ職場で働きたい」もしくは「つらくても転職せず一生一つの職場で働き続けるべきだ」と考える若者は減少傾向にある(図表)。各社が従業員エンゲージメントを高める取り組みを通じ、従業員に選ばれる企業になっていかないと、少子高齢化が進み、将来的な働き手不足が懸念される日本において、人材の確保は一層難しくなるのではないか。

図表 若者の転職に対する考え方

(※1)厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 ─人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について─」(労働経済白書)(令和元年9月27日閣議配布)、171頁より。
(※2)比率は12の質問項目を基にGALLAP社が算出したもの。詳細はGALLAP “State of the Global Workplace 2022 Report”を参照。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美