日本の感染症対応力は世界18位

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2022年08月15日

  • 和田 恵

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言して2年半近くが経過した。今回の経験を受けて、感染症対策に求められる内容が見直されている。例えばジョンズ・ホプキンス健康安全保障センター(JHCHS)等が作成する「グローバル・ヘルス・セキュリティ指数」では、「予防」「追跡」「対応」「医療システム」「キャパシティ・ビルディングや規範」「リスク」の6つの視点から195カ国の感染症(生物学的脅威)への対応力(制度の有無など)を評価しているが、感染拡大を受けて2021年の公表時に構成指標を見直した。

具体的には、予防措置や備蓄、接触追跡に関する指標が拡充されたほか、非医薬品介入(NPI:国民への効果的な情報発信やロックダウンなどの制限措置)に関する項目が追加された。これは、感染症対策には医療体制だけでなく、行動制限措置を可能にするための経済的な支援や政府に対する国民の信頼感等が不可欠であることが教訓として得られたためだ。

日本のグローバル・ヘルス・セキュリティ指数は100点満点中の60.5点で、順位は195カ国中18位(前回の2019年では21位)だ。「対応」において公衆衛生と政府当局間の連携が図られていることなどが評価された。一方、「予防」や「医療システム」が課題だ。予防については生物学的脅威に対するトレーニングが不足しているのに加え、日本は人口当たり獣医師数が少ない。動物由来の感染症リスクが高まる中で動物疾病の専門家が感染症を発見・予防することが求められる。医療システムについては政府が緊急事態の間に医療対策を取りやすくするための制度や国家備蓄を年次でレビューする体制の構築が不足していることなどが課題の背景にある。

コロナ禍の収束は未だ目処が立たない。また、気候変動による影響の拡大や生物多様性の喪失を受けて新たなパンデミックの発生リスクも高まっているとみられ(※1)、足元ではサル痘が世界的な広がりを見せている。この点、グローバル・ヘルス・セキュリティ指数の世界平均は38.9点、最高でも米国の75.9点であり、JHCHS等は全ての国で新たな感染症への備えが十分でないと指摘している。健康と経済への悪影響を最小限にするためには、各国は予防を含めた新たな感染症(生物学的脅威)発生に向けた対策を見直して体系化し、対応能力の向上を図る必要があるだろう。

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