コロナ禍を受けて経済対策に求められる生物多様性の視点

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2021年12月13日

  • 和田 恵

コロナ禍からの復興として、「グリーンリカバリー」が合い言葉となっている。これは経済回復と環境対策を両立するアプローチである。

EUでは7,500億ユーロ規模の大型基金「次世代EU」を創設し、グリーンリカバリーを推進している。加盟国が基金の中核である「復興レジリエンス・ファシリティー」の資金を受け取るためには、復興計画をEUに提出し、承認を受けねばならない。EUは復興計画において37%以上の予算を気候変動目的に配分し、その中に生物多様性(地球上に多種多様な生物が存在すること)への取組みを含めるように要請している。生物多様性の保全に取り組むメリットとして、植物が二酸化炭素を吸収することで温室効果ガス排出量の削減に貢献する点が挙げられた。

さらに、生物多様性の保全は将来の感染症の発生・拡大を防ぐ効果があるという。新型コロナウイルス感染症は人とコウモリなどとの接触がきっかけだとみられているが、人類がこれまでに経験した感染症の約6割はこうした「人獣共通感染症」である 。世界的な経済成長・人口増加による動物性タンパク質需要の増加、都市化などの土地利用変化、野生動物の乱獲、気候変動の影響を受け、人と自然(動物)との付き合い方・接点が変化したことで 、人獣共通感染症の発生頻度は高まっている 。日本でも、首都圏や関西圏を中心に発生リスクが高いという分析もある 。コロナ禍の経験を踏まえると、今後発生するパンデミックを予防するコストの方が、発生した場合の経済・社会的損失よりも小さいことは明らかだ。

2022年には生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第二部にて、新たな国際目標である「ポスト2020生物多様性枠組」が採択される予定である。これを受けて、日本政府は2012年に閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」の後継である次期生物多様性国家戦略を策定する見込みだ。現行の国内のグリーンリカバリー政策は気候変動の緩和策(温室効果ガス排出量を削減するアプローチ)が中心だが、今後は新たな生物多様性枠組と整合的な形で推進することが期待される。

(※1)Woolhouse, M.E.J. and Gowtage-Sequeria, S. (2005). Host Range and Emerging and Reemerging Pathogens. Emerging Infectious Diseases, 2005; 11(12), 1842–1847.
(※2)例えば西アフリカで野生生物の乱獲が増加しているが、これは動物から人間への感染機会を増加させる。また野生生物の生息地を切り開いて都市化・開拓した場合、野生生物と人間・家畜との接触が増えやすい。さらに灌漑によって媒介生物(蚊など)が増加しやすくなる。
(※3)United Nations Environment Programme (2020.7.6)“Preventing the next pandemic - Zoonotic diseases and how to break the chain of transmission”
(※4)Allen, T., Murray, K.A., Zambrana-Torrelio, C., Morse, S.S., Rondinini, C., Di Marco, M., Breit, N., Olival, K.J. and Daszak, P. (2017). Global hotspots and correlates of emerging zoonotic diseases. Nature Communications, 8, 1124.

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