多様化時代の金融サービス業のあり方
2022年08月10日
これからの金融サービス業のあり方を考える上で、一つの重要なキーワードは「多様性」である。今日、人々のライフスタイルは多様化し、その結果、個々人のニーズや行動も様々なものとなっている。卒業後に新卒採用され、結婚、出産、住宅購入といったイベントを通過しながら同じ職場で定年まで勤務し、支給された退職金を取り崩して子や孫とともに老後を過ごす、といったこれまでの標準的なライフプランは多くの人に当てはまらなくなっている。人々のライフプランやそれに伴うマネープランは今後一層、人それぞれのものとなるだろう。
その中で、金融サービス事業者には、業者起点(B to C)の画一的なサービス提供ではなく、個々の顧客のニーズに合わせた顧客起点(C to B)のサービス提供が求められることになるに違いない。こうした要請にどこまできめ細かく対応できるかが金融サービス事業者の力の源泉になってくるように思われる。
また、今日、顧客起点でものを考えていく際には、顧客がしばしば金融サービスよりも非金融サービスに強い関心を持っていることにも留意が必要だろう。そこでは、単なる物の購入にとどまらず、健康やレジャー、快適さ、利便性の追求など幅広いサービスが求められる。しかし同時に、非金融サービスの裏には必ずと言ってもよいほど金融サービスのニーズが存在する。こうしたニーズを的確にくみ取ってサービスの提供を行っていくためには、非金融サービス事業者とも連携した、金融・非金融をまたぐ総合的なサービス提供なども重要になってくるだろう。
さらに、そうしたきめ細かなサービス提供の実現には、ITの活用が重要な鍵となってくるはずだ。そこでは、これまで言われてきた金融サービス事業者とFintech事業者とのオープン・イノベーションということにとどまらず、金融サービス事業者と一般事業者とのオープン・イノベーションも重要なポイントとなってくる。企業サイドでデジタル・トランスフォーメーションが進んでいくと、企業自身のシステムの中に金融サービス事業者が提供する金融的な機能をもデジタル的に取り込んで、財務の効率化を図るとともに、金融サービスと非金融事業とを融合して魅力のある顧客サービスをタイムリーに提供するなどの動きが顕著になっていくことが予想される。そうした動きに的確に対応していくことも金融サービス事業者の重要な課題となるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
専務理事 池田 唯一
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
-
議決権行使における取締役兼務数基準の今後
ISSの意見募集結果:「投資家」は積極的だが、会社側には不満
2025年10月03日
-
2025年8月雇用統計
失業率は2.6%に上昇も、均して見れば依然低水準
2025年10月03日
-
米国の株主提案権-奇妙な利用と日本への示唆
2025年10月06日