投資家は非財務情報をどのように活用しているのか

RSS

2022年08月09日

環境・社会・ガバナンスというESGの視点での投資手法には「ネガティブ・スクリーニング」「ポジティブ・スクリーニング」「国際規範スクリーニング」「ESGインテグレーション」「サステナブル・テーマ投資」「インパクト/コミュニティ投資」「エンゲージメント(投資家行動)」の7つがある。その中で、投資資産残高が最大の戦略は「ESGインテグレーション」である(GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT ALLIANCE “GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020”(2021年7月19日))。この戦略は、財務分析においてESGに関する非財務情報の要素を考慮する投資手法である。

では、具体的には投資家はどのように非財務情報を活用するのだろうか。企業価値を計算する手法として、企業が創出する将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて計測するDCF(割引キャッシュフロー)法がある。将来キャッシュフローを予測する際に、数年後の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を作成するが、非財務情報の中で重要な情報をその作成に織り込んで算出することが考えられる。

人的資本に関する非財務情報の活用方法の一例として、新分野進出・新製品の開発などを行う経営戦略に対する評価が挙げられる。企業がプロジェクトを立ち上げ、新たな人材の確保と既存人材に対する教育が必要になる場合、投資家は企業評価の際に新たなプロジェクトの意義を明確化し、必要とされる人材の定義・人数、プロジェクトのタイムラインごとの施策を確認する。投資家は、その情報を用いてプロジェクトの実効性が高いと判断する場合、将来の売上高や利益などの業績予想と目標株価を引き上げ、その銘柄に対して「買い」の判断を行う(井口譲二「ESG投資の潮流と『望ましい人的資本の開示』」非財務情報可視化研究会(第2回)資料4(令和4年3月7日))。

1四半期先などの短期の業績予測期間で投資判断するというより、数年先の業績予想に基づいて投資判断する際に、当然に考慮しなくてはならない情報が非財務情報には含まれていると言えそうである。このように考えると、数年先の業績予想を作成する際に以前から考慮されてきたものであったはずである。ただ、最近の気候変動を踏まえると、環境というEの要素のように考慮すべき場面が以前よりも増えているのは確かであろう。

金融庁から公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告 -中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(令和4年6月13 日)では、新たに有価証券報告書に非財務情報であるサステナビリティ情報の記載欄を新設すべきとされている。そこでは開示が必須な情報もあるが、上場企業はそれ以外にも投資家が投資判断を行う上で必要となる情報を、エンゲージメントなどを通じて把握し、開示をしていくことが求められそうである。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史