ファイターズ移転に揺れる札幌ドームは黒字か赤字か

~公共施設の真の経営状態は公民連結しないとわからない~

RSS

2022年07月27日

北海道日本ハムファイターズが北広島市に移転することをうけ、札幌市は、現フランチャイズ球場の札幌ドームの来年度以降の収支見通しをまとめた。売上げは半減するものの、サッカーJ1北海道コンサドーレ札幌のホームゲームがすべて札幌ドームで実施されることや展示会、コンサート需要の掘り起こしなどで2年目以降の黒字を見込んでいる。

ここで収支見通しの妥当性は問わないが、そもそも札幌ドームは黒字か赤字か。札幌ドームは札幌市が55%出資する株式会社でいわゆる第三セクターである。決算は毎期公開されており、2022年3月期の単独決算は2期ぶりの黒字となった。ただし、新型コロナウイルス感染症の流行により休業を余儀なくされたこともあり、札幌市から約7000万円の指定管理料を受け取っての話だ。科目名こそ指定管理料だが市スポーツ部施設課によれば実質的な休業補償金で、実際2020年3月期は補償金の科目で計上されていた。

コロナ禍の影響がなかった決算期の直近は2019年3月期だが、赤字だったのでさらに前年度の損益を考察対象とする。2018年3月期の経常収益は39億3600万円で経常損益は2億3000万円の黒字である。市の施設の指定管理者とはいえ株式会社札幌ドームは独立採算が原則で、第三セクターにありがちな赤字補てんを受けていない。そればかりか「行政財産の目的外使用料」として札幌市に1億8800万円上納している。

ただ、これをもって東京ドームその他の民間スタジアムと同じ意味で黒字経営といえるかは少し考える必要がある。株式会社札幌ドームの損益計算書をみると、総工費537億円を投じたドーム球場にしては減価償却費が小さいのに目が留まる。支払利息もほとんどない。

それもそのはず。スタジアムの経営主体は株式会社札幌ドームだけではないからだ。札幌市スポーツ部施設課も関わっている。よって、株式会社札幌ドームの損益に札幌市の札幌ドーム事業の損益を連結しなければ札幌ドームの真の経営状態はわからない。特に札幌ドームの場合、ドーム球場の減価償却費および支払利息は札幌市が負担しているのだ。そこでスタジアム経営にかかる公・民両主体の損益の連結を試みた。すると黒字どころか15億7300万円の経常赤字であることがわかる。実に経常収益の4割の水準だ。

もちろん、株式会社札幌ドームが公表する決算書の黒字に間違いはない。ただしこれは事業全体のうち比較的良好な部分を切り取ったもの。それも黒字とはいえ札幌市の手厚い負担あっての黒字ということだ。経常収入のうち「イベント開催料等」は市スポーツ部施設課によれば実質補てんとのこと。アマチュア使用枠6日分、北海道コンサドーレ札幌14試合分にかかる料金減免によるものだ。目に見えないところではドーム球場にかかる減価償却費、支払利息は市が全額負担。保全事業費の負担もある。株式会社札幌ドームが札幌市に払う「行政財産の目的外使用料」を施設賃借料に見立てることもできようが、その水準は施設整備費にかかる支払利息にも満たない。

札幌ドームに限らず、指定管理者の損益をみるだけでは公共施設の真の経営状態を見誤る。表面上の損益が黒字でも公民連結すれば赤字となるケースは珍しくない。言うまでもなく重要なのは真の業績、そして親自治体の補てん額だ。補てん額には決算書に表れているものと表れていないものがある。言っておくが補てんが悪いというわけではない。不採算でも社会的に必要なサービスは自治体が用意するべきだ。大事なのは、その社会的な必要性に補てん額が見合うものかを住民が正しく判断すること。そのための正確な情報開示が必要ということだ。制度対応が望まれる。

札幌ドーム 損益

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

鈴木 文彦
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 鈴木 文彦