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2022年度の最低賃金引き上げはどうなるか

2022年07月21日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

2022年度の最低賃金引き上げの議論が本格化している。最低賃金は前年度に全国加重平均で930円となり、引き上げ額は過去最大の28円だった。足元と今後の経済状況を踏まえると、2022年度の引き上げ額は前年度並みか、これを上回る可能性がある。

最低賃金の審議では生計費、賃金、企業の賃金支払能力が重視される。これらのうち、家計の平均的な生計費を表す消費者物価指数(CPI)は2022年4月に前年比+2.5%に達し、5月も同水準だった。最低賃金労働者が含まれるパートタイム労働者の時間あたり所定内給与の伸び率はこのところCPIのそれを下回っており、物価高に賃金上昇が追い付いていない状況にある。

今回の物価高は食料やエネルギーといった必需品が中心である。必需品への支出割合は低所得世帯ほど高い傾向にあることから、世帯主が最低賃金付近で働く世帯ではCPIが示す以上に生計費が上昇しているとみられる。CPI上昇率は2023年半ばごろまで高止まりすると見込まれ、生活水準を維持するために最低賃金を引き上げる必要性は大きい。

一方で企業収益は大幅に増加した。法人企業統計調査における全規模・全産業(除く金融保険業)の経常利益は2021年度に過去最高を更新した。特に製造業が好調で、世界貿易量の回復や円安もあって前年度比5割超の増益だった。非製造業でも3割近い増益となり、新型コロナウイルス感染拡大直前の2019年度の水準をわずかに上回った。

だが、感染拡大の影響を受けやすい外食・旅行・娯楽などの需要は低迷したままだ。第3次産業活動指数を見ると、関連業種の経済活動は直近でも2019年12月の水準を2~3割ほど下回る。こうした業種では最低賃金付近で働く人が多く、原材料費の高騰と感染状況の悪化で事業環境は一段と悪化している。企業業績は二極化しており、最低賃金を引き上げる際には、賃金支払能力が一様に高まっていないことへの配慮が必要だ。

他方、政府はできる限り早期に最低賃金の全国加重平均が1,000円以上になることを目指している。2022年度から3%以上の引き上げが続くと、2023~24年度に目標は達成される。今回の審議が終わった後は、新たな目標に対する関心が次第に高まっていくだろう。

そこで参考になるのが英国だ。英国では最低賃金の目標を日本のような絶対額ではなく、「賃金中央値の3分の2」と定めている。英国政府が定義する“low pay”(低賃金労働者の賃金水準)を踏まえたものだ。目標額はマクロの賃金に連動するため、景気が回復し賃金上昇率が高まる局面では最低賃金の引き上げ幅が拡大しやすく、景気が悪化する局面では引き上げ幅が縮小しやすい。経済実態に即した最低賃金引き上げの議論が制度面から促されるという点で、絶対額の目標よりも優れている。新たな目標の設定にあたっては、日本の経済社会が目指すべき最低賃金がマクロの賃金に比してどの程度の水準なのか、それをどのようなペースで達成するかなどについて議論を深めるべきだ。

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