ロシア側と西側諸国、それぞれの陣営強化

RSS

2022年07月12日

ロシアがウクライナに侵攻して約4カ月半となるが、戦争終結への道筋は未だ見えていない。そのような中、ロシアに対して制裁を科す西側諸国と、ロシア側がそれぞれの陣営を強化する動きが活発化している。西側諸国では、希少資源やハイテク品などのサプライチェーンを再構築する動きが進んでいる。「フレンド・ショアリング」と呼ばれるこのサプライチェーンは、価値観を共有する国々だけで構成することを目的としており、地政学リスクの高いロシアや中国を排除する狙いがある。

他方、ロシア側は陣営の拡大に積極的である。プーチン大統領は6月に、カスピ海沿岸国の首脳会議に参加し、米国が「悪の枢軸」と呼んだイランと協力強化を確認した。これを後押ししているのは、ロシア国内における反米感情の高まりである。ロシアの独立系調査機関である、レバダセンターが実施した調査によると、2021年11月、米国に対して好意的な印象を持っていると答えた割合は45%、否定的と答えた割合は42%であったのに対し、2022年5月には前者が14%、後者が75%と否定的な回答が大多数となった。EUに対しても同様に、否定的な印象を持つ割合が増加した。

それとは逆に、ウクライナ侵攻を契機に印象が改善した国がある。それは中国である。2021年8月時点で、中国に対して好意的な印象を持っていると答えた割合が70%、否定的と答えた割合が18%であったのに対し、2022年3月には前者が83%、後者が8%と好意的な印象を持つ割合が上昇した。

制裁によって生活に打撃を受けたロシア国民は、その怒りの矛先を政府ではなく、米国を中心とした西側諸国に向けているようである。これは、プーチン大統領による「国民生活の困窮は、西側諸国からの制裁によるもの」という主張が、国民にある程度浸透していることを意味する。逆に、トランプ政権以降、米国との関係が悪化している中国に対しては、ロシア国民の間で親近感がさらに深まっているようである。中国が、対ロ制裁に対して否定的な立場を明確にしていることも好感を抱く一因となっているだろう。

ロシアによる反米(西側諸国)陣営の拡大は、国民の支持を得る形で今後も進むだろう。それに対し、西側諸国もロシアや中国を経済安全保障上のリスクとみなし、排除する動きを強めると見込まれる。

そのような中、両陣営はそれぞれの勢力を拡大するため新興国を取り込む動きを加速させる可能性が高い。しかし新興国にとって、どちらの側につくか選択することは難しい。高インフレに見舞われている多くの新興国が、ロシア産エネルギーや食糧の調達を停止することや、中国を中心としたサプライチェーンへの依存度を大きく下げることはできない。かといって、ロシアに接近しすぎれば、西側諸国の反感を買うこととなる。新興国には絶妙なバランス感覚が求められるが、この二者択一の難しさは、世界経済のブロック化は回避すべきであることを物語っている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲