高齢顧客の認知機能の状態はいずれデジタルで判定?

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2022年06月13日

  • ニューヨークリサーチセンター 研究員(NY駐在) 藤原 翼

気が付いたら「2025年問題」が目の前に迫っている。2025年は団塊世代が全員75歳以上(後期高齢者)になる年である。75歳を超えると認知症の有病率が急激に上昇するといわれており、こうした中、金融機関も高齢者対応を進めるべきであると多く指摘される。

高齢者の認知機能の状態は個人差があり、75歳未満でも認知機能の低下が進んでいることもあれば、75歳以上でも現役世代並みの認知機能を有していることもあるだろう。こうした点を踏まえ、金融商品販売時には、年齢等によって画一的な対応を取るのではなく、それぞれの認知機能によって対応を行うべきであるとされている。しかし、営業員がそれぞれ認知機能の状態を正確に判断するのは限界があると考えられる。そこで、認知機能判定にデジタル技術を活用することが注目される。認知機能を判定する技術は、これまで生命保険会社における認知症保険の付帯サービスとして、アプリ等で各自検査を行い、健康維持等に活かすことが主であった。こうした認知機能判定の技術を、顧客対応に活用していくことが期待される。

経済産業省が取りまとめた調査(※1)では、高齢顧客対応にデジタル技術を活用して、金融商品取引に必要なリスク管理能力を確認できるかを評価している。同調査では、金融商品取引に必要な認知判断能力の要素・水準が科学的に明らかになっていないことなどがあり、現時点では金融商品取引に必要な総合的なリスク評価能力をデジタル技術等の確認結果のみで判断することは困難であるとしている(※2)。その一方で、「最終的な顧客対応の判断は人が行う必要があるが、参考情報としてデジタル技術を活用する可能性が示唆」(脚注2資料p.35)されている。

デジタル技術を参考に、営業員が顧客の認知機能低下の兆候を早期に察知し、認知症に備える対応を促すことができるようになれば、顧客が自身の望むように資産管理できる可能性が高まる。また金融機関としても、認知症に備えるための対応が進むことで、民事信託の利用等を通して次世代顧客と早期に接点を持てる可能性がある。

早期に対応を行えるようにするという点では、ビデオ通話時の映像(※3)や電話時の音声などをもとに、顧客との通常のコミュニケーションの中で認知機能の状況を継続して把握できるようになることが、技術面への期待として挙げられる。

もちろん、事前同意の在り方は検討しなければならないし、高齢者がそもそもデジタル機器で認知機能を判定されることに嫌悪感を覚える可能性があるなど、技術面以外の課題も多い。出来るだけ早く必要な議論を深めていくことが望まれる。

(※1)「規制の精緻化に向けたデジタル技術の開発事業」(2020年度)の、「プロ投資家対応・金融商品販売における高齢顧客対応に係る調査」
(※2)経済産業省「『規制の精緻化に向けたデジタル技術の開発事業』終了時評価 評価用資料」(2021年12月8日・10日)より
(※3)東京大学、東京都健康長寿医療センターは、認知機能が低下した患者と健常者を顔写真で見分けることができるAIを開発したと2021年1月に公表している。

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ニューヨークリサーチセンター

研究員(NY駐在) 藤原 翼