観光関連市場が回復に向かう中で重要となる「客数急増に備えた実践研修」

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2022年06月08日

早いもので、今年も1年の半分が過ぎようとしている。あと1ヵ月ほどすれば夏休みシーズンである。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、また3月には政府がまん延防止等重点措置を終了したこともあり、新型コロナが発生してから3度目となる今年は、ここ2年間の分も取り返して楽しもうとする「リベンジ旅行」が増えるものと思われる。また、外国からの観光客も増えそうだ。6月1日からは入国者数の上限が1日あたり1万人から2万人に引き上げられ、10日からは外国人観光客の入国制限も見直される。これらの動きにより、飲食、宿泊、旅客輸送などの観光業界を取り巻く環境は、徐々に明るさを取り戻してきている。

人々の動きがコロナ前のような状況に戻るには、もう少し時間がかかりそうだが、観光関連市場では客足の回復が続いている。先月のゴールデンウィークでの航空、鉄道企業における利用実績をみると、国内の旅客数はコロナ前に比べて6割から8割の水準に留まっているものの、前年に比べれば総じて2倍以上と大幅に増えた。

訪日外国人旅行者数では、2019年の訪日外国人旅行者数3,188万人(日本政府観光局)を単純に1日換算(約8.7万人)してみると、今回の入国者数の上限はその2割程度に過ぎない。しかし、2019年には訪日外国人旅行者数による消費額が約4兆8,000億円(経済産業省)だったことを踏まえると、入国制限の緩和効果は大きい。さらに、ここ2年間で円の価値が下がったことで米ドルなどからみた日本の物価が安くなり、訪日外国人旅行者がコロナ前よりも日本(円)での支出を増やすことも期待される。

これらの傾向は観光関連企業にとっては嬉しいことだが、客数が急激に増えることで応対が遅れたりする「接客サービスの低下」、「現場のオペレーションの乱れ」等には留意したい。企業の中では、新型コロナの影響で経験豊富なスタッフが離職したり、固定費を抑えるために人材採用を控えてきたところも少なくない。新型コロナに対応した接客やオペレーションを始めてから、今年の夏休みシーズンの客数がおそらく最も多くなると予想される。かつてはうまくコントロールしていた現場のオペレーションの経験が、そのまま通用するわけではないだろう。

このため、夏休みシーズンに入る前の今、スタッフの実践研修を積むことが重要となる。実践研修はこれまでも取り組んでいることではあるが、新型コロナに対応した今のオペレーションで、客数が増えた場合の問題点の洗い出しや対策を行い、実際の職場で研修していることが必須となる。

「リベンジ旅行」ということを考えると、お客様のサービス品質に対する期待はコロナ前より高いと考えられる。久しぶりに観光市場に戻ってきたところで期待以上の接客サービスを受けたら、そのお客様がリピーターになる可能性もあろう。その反面、サービスに不満を持たれてしまったら、口コミやSNSを通じて自社の評判が低下し、今後の他社との顧客獲得競争で不利になる恐れがある。新型コロナから3回目の夏休みシーズンとなる今年は、今後の観光市場の回復の波に乗れる企業と乗れない企業とを分けるものになるだろう。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏