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消えた日銀出資証券

2022年05月10日

政策調査部 主任研究員 神尾 篤史

ご存じない方も多いと思われるが、日本の中央銀行である日本銀行(日銀)は、トヨタ自動車やソニーグループなどといった民間企業と同様に東京証券取引所(東証)に上場している。ただ、会社法に基づく株式会社とは異なり、日銀は日本銀行法(日銀法)という特別な法律によって設立された認可法人である。株式会社のように株式は発行しておらず、出資の持ち分として出資証券が発行されている。東証にはその出資証券が上場されているのだ。

そんな日銀の出資証券を買い集めたらどうなるか、と一瞬妄想するが、1億円の資本金のうち政府の出資が55%を下回ってはならないことが日銀法で定められているため、過半数の出資証券を取得することは不可能である。たとえ買い集めができたとしても、そもそも株式会社の株主総会にあたる出資者総会はなく、出資者に議決権の行使は認められていない。

日銀出資証券は上場されてはいるものの、売買が成立しない日も珍しくなく、成立したとしても出来高はわずかであることが多い。市場ではあまり注目されることがない日銀出資証券であるが、2022年4月4日から開始した東証の新市場でちょっとしたサプライズがあった。

かつては店頭登録銘柄だった経緯でJASDAQに上場していた日銀出資証券は、新市場ではスタンダード市場に上場するという連想が働くが、現在、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場のどこにも日銀の名前はない。市場再編と同時に、日銀出資証券はまさしく消えたと思われたのだ。

しかし、実際は消えたわけではなく、特定の市場には上場しないという誰も予想できない出来事が起きた。東証の有価証券上場規程において、出資証券は「当取引所のJASDAQ」に上場させると以前はされていたが、現行の有価証券上場規程では「当取引所」に上場させると改正されている。東証の提供する株価検索サイトで日本銀行を検索すると価格が表示されるが、プライム、スタンダード、グロースと書かれる所属市場が空白である。

日銀法が最大45%手前まで政府以外の者が出資できるとしているため、その出資証券を売買できる場は必要なのだろう。ただ、日銀がプライム、スタンダード、グロースのいずれの市場に上場するのがふさわしいか考えることに意味がないのは明らかだ。2018年10月から始まった東証再編の動向をつぶさに追いかけてきたが、その中でも日銀出資証券の扱いは非常に興味深い出来事の一つである。

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神尾 篤史

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