より早期のサステナビリティ情報の開示が求められる?
2022年05月09日
金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)において、有価証券報告書で企業のサステナビリティ情報の開示を求めることについて検討が行われている。DWGでは、サステナビリティ情報に関して、投資家の投資判断に必要な情報を開示しながら、詳細情報については任意開示書類を参照可能とすることが提案されている。
それでは、例えば3月決算の上場会社で毎年9月に統合報告書を公表している場合は、6月に有価証券報告書を提出する際に、サステナビリティ情報については前年9月の統合報告書の概要をコピーアンドペーストし、詳細は統合報告書を参照、と記載すればよいのだろうか。開示企業の負担軽減にはなるだろうが、投資家などが企業価値を評価するために十分な対応なのだろうか。
この疑問について考える上で、国際的なサステナビリティ情報開示に関する検討状況に目を向けてみよう。国際的かつ統一的な開示基準の策定を目指す国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2022年3月にサステナビリティ情報開示基準の公開草案を公表している(※1)。この公開草案では、企業は関連する財務諸表と同時に、財務諸表と同じ報告期間についてのサステナビリティに関する財務情報を開示しなければならないとされている。
ISSBの公開草案においては、財務情報とサステナビリティ情報の関連性が重視されており、両者のつながりを説明することが求められている。例えば、サステナビリティに関するリスク・機会などが、短期、中期、長期にわたる業績などに与える影響の説明などが想定されている。
ISSB基準に沿えば、投資家などが企業価値を評価するために、同期間における財務情報とサステナビリティ情報の関連性を理解できるような情報を企業が開示することが重要と考えられる。
例えば、ガバナンス体制、リスク管理のプロセス、長期的な方針など、変更がない情報については前年に開示した統合報告書の内容をそのまま記載・参照することができるだろう。一方で、前年の情報からの変更の可能性があるサステナビリティに関するリスク・機会からの影響などについては、財務情報を開示するタイミングで、改めて検討することが求められるのではないだろうか。もちろん検討を行った上で、前年の統合報告書の内容を記載・参照するという判断をすることもあり得る。
現在、わが国では気候変動に関する情報をTCFD提言に基づいて開示を行っている企業が多く見受けられるが、将来的にはISSB基準へと移行していく可能性も想定される。ISSB基準への移行を念頭に置くのであれば、有価証券報告書の開示時点で財務情報をサステナビリティ情報と独立して考えるのではなく、両者をともに関連付けて考慮していく必要があるのかもしれない。
(※1)詳しくは、拙著「企業のサステナビリティ情報の開示に関する国際的な基準案が公表」(2022年4月22日、大和総研レポート)、拙著「企業の気候変動情報の開示に関する国際的な基準案が公表」(2022年4月22日、大和総研レポート)を参照。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
研究員 藤野 大輝
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