オンライン資格確認のメリットとは

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2022年04月27日

医療機関や薬局の窓口で、顔認証付きカードリーダーを見かけたことがあるだろうか。これは、2020年10月から本格的に運用がスタートしたオンライン資格確認の機器で、患者の保険資格情報をオンラインで確認して、レセプト等に正しく反映するためのものである。患者がこの機器で受付手続きを行う際に、健康保険証利用の登録をしたマイナンバーカードを使うと、医師や薬剤師による薬剤情報・特定健診等情報の閲覧に同意することで、過去の状況を踏まえた診療や投薬を受けることができる。この仕組みによって、災害時にもより適切な医療の提供が可能になると期待されている。

医療機関等でオンライン資格確認が進められていることには、上記の効果以外に、主に2つの目的がある。1つはマイナンバーカードの利用機会を増やすことで、カードの普及を促すことだ。デジタル社会の早期実現には、マイナンバーカードの利活用が不可欠と政府は考えており、2022年度までにほぼ全ての国民のマイナンバーカード取得を目指している。2022年4月1日時点の交付状況は43.3%にとどまる(総務省「マイナンバーカード交付状況(令和4年4月1日現在)」)。

2つ目の目的は、日本のデータヘルスの取り組みを加速させることだ。日本には、社会保険制度を基盤に、全国民を網羅した健康・医療・介護などの大規模なデータが収集・蓄積されている。これらの膨大なデータを、オンライン資格確認の基盤を通じて個人単位で一元化すれば、研究等での活用が増え、医療分野のイノベーションにつながると期待されている。

ところが、要であるはずの医療機関等におけるオンライン資格確認のシステム導入が、費用負担の重さなどを理由に思ったように進んでいない。国はシステム整備費の補助等も行ってきたが、2022年4月10日時点で同システムを運用している施設は全国で16.5%である(厚生労働省「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」)。

そこで、2022年度診療報酬改定では、オンライン資格確認を通じて取得した患者情報を活用して診療・調剤することを評価する、「電子的保健医療情報活用加算」が新設された。患者の薬剤情報などを確認して診療することでより質の高い医療が提供できるからとの説明だが、2024年3月末までは、システムを導入していれば、患者情報の取得が困難な場合でも算定を可能とする特例が設けられており(初診のみ)、実際は、導入を促進するための加算になっている。このため、結果的に、従来と同じ診療を受けただけでも、窓口負担が増えるケースが生じている。

もちろん、デジタル社会の実現は生活の利便性を向上させるし、医療分野の研究が活性化して医療が発展すれば、いずれ大きなメリットとして私たちに還元される。だが、保健医療サービスの対価である診療報酬を用いてオンライン資格確認の広がりを後押ししているという事実をどれだけの人が知っており、また、知っているとして、どれだけの人が納得しているだろうか。このシステムについては、すでに多くの税金や保険料が導入・運営費の補助に充てられている。これらの点を踏まえると、導入のためのコストとともに、期待されるメリットが国民に明確に示される必要があり、また、私たち自身も、医療の質の変化にこれまで以上に注目していくことが大切なのではないか。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来