バイデン政権の命運を握るガソリン価格
2022年04月06日
米国バイデン大統領の支持率はこのところ下げ止まりつつあるものの、40%程度にとどまる。支持率停滞の一因は、家計を悩ませる高いインフレ率に関して、バイデン政権の政策が影響しているとの考えが広がっていることだろう。
米国キニピアック大学が3月30日に公表した世論調査によれば、ガソリン価格上昇の最大の要因として「バイデン政権の経済政策」と回答した人は全体の41%となり、全ての選択肢の中で最大の割合を占めた。次いで「ウクライナ侵攻とロシアへの制裁(24%)」、「石油会社の価格転嫁(24%)」が続く。
もっとも、回答の内訳を見ると、支持政党によって傾向が大きく異なる。共和党支持者においてはガソリン価格上昇の要因を「バイデン政権の経済政策」と回答する割合は82%にも上る一方、民主党支持者ではわずか3%にとどまる。
バイデン大統領は脱炭素化の推進を掲げ、就任直後から石油産業への規制を強めてきたが、こうした姿勢は原油や石油製品の価格が高騰する中においてもほとんど変化していない。結果として、原油価格が急騰し掘削業者の採算性が大幅に改善しているにもかかわらず、米国内での原油掘削リグの稼働数は非常に緩やかな増加にとどまっている。共和党支持者の間では、規制によって原油の増産が進まないことがガソリン価格上昇の大きな理由であるとして、政権に対する批判が高まったとみられる。
他方、民主党支持者の中でこうした見方が極めて少ないのは、目先の原油価格高騰に対して、むやみに規制を緩和しないことが支持されている可能性を示唆する。こうした世論調査の結果は、脱炭素化を目玉政策としているバイデン政権にとっては安心材料といえるだろう。脱炭素化は2020年の大統領選挙でバイデン大統領が勝利する原動力となった民主党内の急進左派にとってプライオリティが高い政策であり、党内への配慮という側面からも固持される可能性が高いと思われる。
ただし、バイデン政権のエネルギー政策を支持する民主党支持者にとって、インフレ率の高進が問題になっていないわけではない。上述の世論調査によれば、米国経済が直面する問題として「インフレ」と回答した民主党支持者の割合は全体の15%となり、1位の「ロシア/ウクライナ(16%)」に次いで2番目に多い。とりわけ米国では5月最終月曜日(2022年は5月30日)のメモリアルデーからドライブシーズンに突入し、ガソリン価格への注目度は今後一層高まることになる。仮にガソリン価格の更なる高騰が続き、その痛みに耐えられなくなる家計が増えれば、民主党支持者の間でもバイデン政権のエネルギー政策に対する批判が強まることになろう。既述のように、急進左派への配慮という観点からバイデン政権は化石燃料の積極的な増産には動きづらく、ガソリン価格の上昇は、既に低いバイデン大統領の支持率を一層低下させる可能性がある。
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦