対ロシア金融制裁で注目されるCIPSとは
2022年04月05日
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシアへの金融制裁が決定され、一部銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されることとなった。国際決済は主に送金情報伝達システムと実際の資金のやり取りを成立させる決済システムの2つで成り立つ。SWIFTとは前者の送金情報の伝達に用いられるサービスであり、その普及率の高さから国際決済における事実上の標準規格となっている。SWIFTからの排除は国際決済における主な手段の消失を意味する。そのような中で突如、SWIFTの代替手段として中国が運用する人民元決済システムであるCIPS(人民元国際決済システム、Cross-border Interbank Payment System)が注目を浴びた。
CIPSとは中国が人民元の国際決済のために構築したシステムであり、決済システムのみならず送金情報の伝達機能を有している。システムへの参加銀行は2022年4月1日時点で1,288行となっている。中国資本の銀行が主だが、欧米のメジャーな銀行もいくつか参加しており、日本の銀行では3メガバンクも参加している。送金情報の伝達機能を有し、参加銀行が多数あることから、SWIFTの代替手段として期待が高まったのであろう。
しかし、現時点ではCIPSがSWIFTを代替できる範囲は限定的である。CIPSは決済通貨を人民元に限定しており、加えて送金情報の伝達においてSWIFTから独立していない。CIPSのシステムはSWIFTと接続しており、送金情報の伝達手段として専用回線とSWIFTの両方を受け入れている。CIPSの参加銀行のうちほとんどはCIPSの専用回線を使うことができない間接参加行ということもあり、実際にはCIPSを利用した決済においてSWIFTに依存する場面は多いようだ。
もっとも、CIPSの存在意義を中国がSWIFTから排除された際の代替手段として捉える見方もあることから、現状のようなCIPSとSWIFTの協力関係を疑問視される方もいるかもしれない。恐らくは、国際決済における事実上の標準規格となっているSWIFTを中国が受け入れることで、CIPSの参加メンバーを拡大することを優先したのではないだろうか。
上記の通り、CIPSはSWIFTの対抗馬となるには及ばない状況である。しかしながら、今回の対ロシア金融制裁はSWIFTが使用できなくなった場合の代替手段の必要性を他国に想起させるイベントであったといえよう。既に広く取引通貨として流通しており、運用先も豊富である米ドルに比べると、人民元は資本規制の影響もあり、用途や運用先が限られる。このため人民元の利用が急速に伸びることは考えにくいものの、万が一の代替手段としてCIPSへの参加を検討する銀行は今後増加していくのではないだろうか。
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