株主総会で増える反対票—影響大きなコーポレートガバナンス・コード改訂—

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2022年03月31日

株主総会シーズンが近づいてきたが、取締役選任議案で反対票が増えそうな状況だ。原因の一つは、2021年のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)改訂にある。改訂前から東京証券取引所(東証)1部・2部上場会社は独立社外取締役を複数選任すべきとしていたが、改訂によってプライム市場上場会社には3分の1以上、支配株主がいる会社では過半数が求められ、そうしていない場合は理由を説明しなければならない(なお、支配株主がいる場合の過半数という基準は、独立社外取締役を含む独立性のある者で構成される特別委員会を設けることで代替できる)。

上場会社は、社外取締役を着実に増やしてきたが、まだ3分の1に達していない会社は少なくない。特に監査役設置会社では、既に監査役の半数以上が社外となっている状況に加えて、取締役も社外者を3分の1以上としなければならず、候補者探しに苦慮するのではないか。厳しくなるばかりのCGコードだが、これを充足していない場合、株主総会で反対票を投じるとする議決権行使基準を機関投資家は採用するようになっている。CGコード改訂が昨年6月だったので、機関投資家の基準見直しは昨年の総会シーズン後に進んだ。機関投資家の多くと議決権行使助言業者は、反対投票の対象を経営トップとしているが、取締役候補者全員に反対するとの基準を持つところもある。基準を充足していないとして、昨年とは異なる多さの反対票が出ると想定しておくべきだ。

2018年のCGコード改訂で取締役会のジェンダー・ダイバーシティが定められたほか、政策保有株式に関する開示事項が大幅に増えた。これらを取締役選任議案での考慮要素とする動きが徐々に広がっており、女性取締役不在の場合や、過大な政策保有株式を持っている場合も、経営トップの取締役選任議案への反対票が増えるだろう。こうした問題点についても議決権行使助言業者が先行して助言基準を変えており、助言業者に従う傾向が強い海外投資家は、今まで以上に厳しい議決権行使をするはずだ。

さらに、昨年のCGコード改訂では、サステナビリティ課題への取り組みや情報開示に関する事項が拡充されたが、これも議決権行使に影響を及ぼすだろう。サステナビリティ関連の情報開示が不十分であると判断されると、経営トップなどの取締役選任議案で反対投票をする場合があるとの議決権行使基準を持つ機関投資家が現れている。

また、今年は特に、スタンダード市場上場会社の株主総会動向にも注目したい。東証再編に際して、プライム市場の上場基準に不適合だったり、ガバナンス面の負担増を嫌ったりして、東証1部上場会社でもスタンダード市場を選択した例が少なくない(基準に不適合でも経過措置を利用すればプライム市場への上場は可能だった)。こうした会社では、市場選択の妥当性に関する質問が投資家から出ることを考えておく必要がある。選択結果の公表前後で、株価変動が大きかった会社はことさらだ。

コード改訂とは関係ないが、コロナ禍の中でバーチャル株主総会への取り組みが問われる可能性もある。バーチャルオンリー型株主総会を実施するには、原則としてあらかじめ定款を変更しておく必要がある。この定款変更議案に対する議決権行使助言業者の基準は、原則賛成とするところと原則反対とするところに分かれる。機関投資家はおおむね賛成のようだが、ある程度の反対票が出ることは想定しておくべきだ。また、2020年以来、株主総会をインターネット中継するハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する会社が増えている。コロナ禍で株主総会へ足を運ぶのが難しくなっている中、株主に総会の様子を知らせる機会を設けていない場合は、経営者の姿勢が問われるかもしれない。

新型コロナウイルスやウクライナ情勢など、個々の会社にはどうすることもできない新たなリスクが現れている。こうした新たなリスクが他のリスク、例えばサイバーセキュリティ・リスクを深刻化させる恐れもある。さまざまなリスクが顕在化した場合の業績への影響や対処方針を問う株主が、これまで以上に現れることを想定しておくべきだ。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕