中国:何かがおかしい。政府成長率目標は実質5.5%前後、名目5.2%?

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2022年03月24日

全国人民代表大会(全人代)が3月11日に閉幕した。李克強首相の政府活動報告では、2022年の政府成長率目標は前年比5.5%前後(以下、変化率は前年比)と発表された。新型コロナウイルス感染症の猛威が続く中、ロシアのウクライナ侵攻などで世界的に景気の先行き懸念が強まっており、目標達成のハードルは高い。中国の新型コロナウイルス感染症の一日当たりの新規感染者数は、これまでは多くても200人~300人台であったのだが、全人代の会期中に増え始め、3月中旬には数千人規模に膨れ上がった。感染者が急増した東北部の吉林省長春市のほか、ハイテク産業が集積する広東省深圳市でもロックダウンが実施されるなど、3月に入り状況は悪化している。4月~6月期には一段の金融緩和を含め、景気テコ入れ策が発表されることになろう。

筆者が政府成長率目標以外で注目するもののひとつに、財政赤字のGDP比がある。これによって、財政がどの程度拡張的なのかを確認することができる(2022年予算では▲2.8%と、2021年実績の▲3.1%から縮小)ほか、財政赤字額とそのGDP比によって、中国政府が名目GDPをどの程度と想定しているのかが分かるためである。

これが役に立ったのが、2020年だった。この年はコロナ禍で、全人代の開幕が当初予定の3月5日から5月22日への延期を余儀なくされたほか、政府成長率目標を設定できない異例の事態に陥った。こうした中で、財政赤字は3.76兆元、GDP比は▲3.6%前後と発表された。計算上、名目GDPは104.4兆元となり、2019年の99.1兆元(当時。その後98.7兆元に下方修正)からは5.4%増が見込まれていた。過去10年平均のGDPデフレーターが3.4%であったことを勘案すると、中国政府は、2%程度の実質成長を期待しているとの推察が成り立ったのである(実績は2.2%)。

同様の考え方を2022年予算に当てはめると、財政収支は3.37兆元の赤字、GDP比は▲2.8%と発表されたので、名目GDPは120.4兆元程度が想定されていることになる。2021年の114.4兆元からは5.2%しか増えない計算であり、実質GDP成長率の政府目標5.5%前後と整合的ではないように見える。一方で、3月11日の李克強首相の記者会見では、「2022年の名目GDPの増加分は9兆元程度」との発言があった。これに従うと、2022年の名目GDPは123.4兆元、伸び率は7.9%増となり、実質5.5%前後との違和感はなくなる。

財政赤字のカウントの仕方が変わったのかもしれないし、何かが間違っているのかもしれない。さらに調べてみるつもりだが、よく分からないので、レポートに書けずに少し困っている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登