日本の物価情勢

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2022年03月17日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

円安や国際的な原材料価格の高騰で物価が上昇し、生活に悪影響を与えているというメディア報道は特に昨年秋頃以降散見されるようになった。そこにウクライナ侵攻というとんでもない事態が加わり、インフレ下で人々が生活を維持するには経済対策が必要という声が各政党の中で広がっているという。背景には夏に参院選が控えていることも見え隠れする。

3か月ごとに行われている日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」では、物価が上昇していると実感する人の割合が2021年を通じて急速に高まったことが示されている。2021年11月5日~12月1日に実施された直近の調査では、1年前に比べ物価が何%程度変化したかという問いに対する回答中央値が+5.0%であり、前回の+3.0%から跳ね上がった。

このアンケートは物価を「購入する物やサービスの価格全体」と定義しているが、物価の実感は、数年に一度ではなく、日々購入する物やサービスの値段に大きく影響されているだろう。2022年1月の総務省「消費者物価指数」で品目の購入頻度別に2020年対比の変化率を見ると、①頻繁:+4.3%、②1か月に1回程度:▲8.7%、③2か月に1回程度:+2.9%、④半年に1回程度:+1.4%、⑤1年に1回程度:+1.7%、⑥まれ:▲0.1%となっている。

これら動向は、物価全体というより、個別物価の要因でかなりの説明がつく。①は「ガソリン」の寄与率が8割程度に達している。「たまねぎ」など一部の野菜が値上がりしているが、値下がりしている食料品は多い。②では、「食用油」「まぐろ」「牛肉(輸入品)」の上昇は確かに目立つが、「通信料(携帯電話)」が猛烈に値下がりした。値上がり品目のインパクトと比べて、通信料の値下げで家計に生まれた余剰は非常に大きい。

③では「都市ガス代」「水道料」「たばこ(国産品)」が上昇に寄与した。水道料金は長らく低位に置かれた結果、いよいよそのインフラ維持が各地で難しくなってきたという事情があり、たばこは段階的に増税が進められている。④では「灯油」、⑤では「宿泊料」と「火災・地震保険料」の値上がり寄与が大きい。宿泊料はGo To トラベルキャンペーンによって一時的に大幅下落した反動であり、火災・地震保険料は気候変動や多発する地震の影響で値上がり基調にある。

2022年1月の消費者物価総合指数は、前年同月比+0.5%にとどまっている。油価の上昇は、世界的な脱炭素の論議の拙速さが招いた面が否定できない。人々の物価観の変化を注視する必要はあるが、日本の物価を全体として捉えれば、現時点で米国のようなインフレ圧力に直面しているとはいえないと思われる。それだけで日本の成長力を強化できるわけではないことは証明されたが、現在の金融政策を当面続けるしかないだろう。

一般物価の上昇を安定化するには、サービス価格に直結する賃金の安定的上昇が必要である。家計全体の消費バスケットの約半分はサービスであり、モノの製造・販売も最近はサービスとセットである。だが、例えば外食サービス物価では「牛丼」だけが大きく上昇する一方、それ以外はわずかな上昇か下落である。ウクライナ情勢が賃上げの行方を不透明にしているが、そもそも生産性の上昇を伴わないままに幅広い賃上げを無理に先行して進めれば、マネーの量が極端な状況だけに、それこそ扱いにひどく困る物価環境となりかねない。

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鈴木 準
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