過渡期を迎えたスポーツイベントの放送について

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2022年03月15日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 遠藤 昌秀

FIFAワールドカップカタール2022(ワールドカップ)のアジア最終予選が佳境を迎えている。日本代表は3月24日に行われるオーストラリア代表とのアウェー戦に勝利するとワールドカップの出場が決まるが、リアルタイムでその瞬間を目撃できる視聴者は過去のアジア最終予選とは異なり、限られることになる。

その理由としては、アジア・サッカー連盟主催大会の放映権料が急騰したことにより、2006年のドイツ大会以降、アジア最終予選を地上波で独占放送してきたテレビ朝日に代わって、資金力を有する動画配信サービスの「DAZN」が放映権を獲得し、テレビ朝日は日本代表のホーム戦に限り、地上波で放送することになったためである。

3年ほど前の本コラム「地上波放送からスポーツ中継の消える日が訪れるのか」(※1)において、「オリンピックやサッカーのワールドカップなど国民の関心事が高い世界規模の大型スポーツイベントが地上波放送で中継されなくなることは想像できないが、優良コンテンツの放映権料上昇に歯止めがかからない現状では、視聴者がお金を払わない限り、優良コンテンツの視聴機会が損なわれることは容易に想像できる。」と記した。

オリンピックについては、2024年から2032年までの夏季・冬季合わせて5大会の放送権をNHKと日本民間放送連盟で構成する「ジャパンコンソーシアム(JC)」が獲得している(※2)。一方で、各種報道によると、ワールドカップ本大会については、放映権の交渉がJCとの間でまとまらず、インターネット放送局の「ABEMA」とNHK、テレビ朝日、フジテレビが獲得したとのことである。

オリンピックはこの先、10年ほどNHKと民放各局によって地上波で放送されることは確実であるが、ワールドカップ本大会については、3年間で状況が大きく変化することになった。

イギリスのように、スポーツを公共財とみなして誰もがアクセスできるようにする、いわゆる、「ユニバーサル・アクセス権」を確立すべきとの意見も出始めている。例えば、政府が指定したスポーツイベントについて無料放送を義務付けるという「クラウン・ジュエル」と呼ばれる手法も検討できるだろう。

放送制度の違い等もあり、慎重な議論が必要になろうが、近年、総務省において「公共放送の在り方」や「デジタル時代における放送制度の在り方」が検討されており、その先には、スポーツイベントの「ユニバーサル・アクセス権」を検討する機運が高まることも考えられる。是非、我々が、多くのスポーツイベントについて、ライブ感をもって心から楽しむことのできる視聴環境づくりを期待したい。

(※2)日本民間放送連盟 報道発表(2014年6月19日、2019年11月14日)

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遠藤 昌秀
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