地上波放送からスポーツ中継の消える日が訪れるのか
2018年12月19日
日本のスポーツビジネスは、「日本再興戦略2016」において、2015年に5.5兆円の市場規模を2020年までに10 兆円、2025 年までに15 兆円への拡大を目指すKPI(目標)を掲げており、2019年にラグビーのワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピックの国内での開催を控えているという追い風もあり、現在、活況にあるといえる。
こうした背景もあり、2016年にバスケットボールのBリーグ、2018年には卓球のTリーグと、国内にてトップリーグが相次ぎ発足するに至っている。
一見、順風満帆の状況ではあるが、国内外を問わず、テレビ、特に地上波においてメジャースポーツの中継を見る機会が激減していることは顕著である。
1990年代後半以降、BS/CS放送による有料放送事業者の登場がスポーツ中継のあり方を変えてきたが、こうした有料放送事業者の設立には既存の放送事業者も深く関わってきたという経緯もあり、コンテンツの個々の特性に応じて地上波とBS/CS放送との間で棲み分けられてきたと思われる。
しかし、技術革新の進展から通信が放送の領域まで浸食し、動画配信ビジネスの存在感が増しており、大手通信事業者や外資の動画配信事業者など既存の放送事業者の資本力を上回る企業がコンテンツのメインホルダーになるなど、スポーツ中継を取り巻く環境は様変わりしている。
サッカーを例にとると、日本代表の試合は公式戦や親善試合を問わず、注目度も高く、スポンサー(広告主)も付きやすい状況にあるため、地上波で中継されている。しかし、個々の代表選手が普段、国内もしくは海外の所属チームでプレイする姿を見ることは、一部を除き、BS/CS放送や動画配信事業者と契約を締結しない限り、叶わないのが実情である。
その一方で、欧州サッカーのトッププレイヤーが移籍先として米国や中東、中国ではなく、日本(Jリーグ)を選択する傾向にあることや、日本最大のプロレス団体は独自に立ち上げた動画配信サービス事業を通じて海外のファンを取り込み、業績を伸ばすなど、動画配信ビジネスがスポーツビジネスの経営基盤を強固なものにし、コンテンツの価値を高めていることに疑いの余地はないといえる。
オリンピックやサッカーのワールドカップなど国民の関心事が高い世界規模の大型スポーツイベントが地上波放送で中継されなくなることは想像できないが、優良コンテンツの放映権料上昇に歯止めがかからない現状では、視聴者がお金を払わない限り、優良コンテンツの視聴機会が損なわれることは容易に想像できる。
その場合、底辺拡大の入口としての役割を地上波放送によるスポーツ中継が担えないことになれば、ポスト2020を睨めばスポーツビジネスの成長に陰りを見せる危惧も残される。
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コーポレート・アドバイザリー部
主任コンサルタント 遠藤 昌秀
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