サマリー
◆2022年11月のChatGPT公開以降、生成AIは経済や社会など広範囲に変化をもたらしつつある。その影響はもはや未来予測の段階ではなく、現実のデータに基づく実証分析の対象へと移行している。
◆近年発表された海外の実証研究は、生成AIの影響が「代替」と「補完」の二重性を持ち、その現れ方が「タスクの性質」と「市場構造」という二つの要因によって複雑に変化することを示している。
◆後者の市場構造に関しては、企業内の人材で完結する内部労働市場に対しては、生産性を高める「補完」ツールとして機能し、特に経験の浅い層の能力を引き上げる「スキル圧縮効果」が確認されている。しかし、フリーランス市場に代表される外部労働市場では、仕事を奪う「代替」の圧力が強く、特にエントリーレベル人材の機会を奪う構造が実証研究により明らかになりつつある。この動きは企業の採用戦略にも波及している可能性がある。実際、米国大手IT企業では2024年にエントリーレベルの採用を前年比で約25%減少させた一方で、経験者採用は増加した。
◆現在観測されている変化は、まだ序章にすぎない公算が大きい。AI技術は足元でもさらなる進化を遂げている。直近では、Google DeepMind社とOpenAI社が開発した生成AIは2025年の国際数学オリンピックで金メダルに入賞するほどの性能に達した。また、OpenAI社は早ければ同年8月についに新型モデルのGPT-5を公開する予定である。同時に、生成AIの役割も人間の指示を待つ「副操縦士」から、より高次の目標に基づき自律的に計画・実行・修正まで行う「AIエージェント」へと質的に進化しつつある。
◆これらの動きは大卒者の雇用にさえ影響を与えうる構造変化であり、日本にとっても対岸の火事ではなかろう。エントリーレベルのホワイトカラー労働者のキャリアパス縮小などのリスクに対し、個人・企業・政府が三位一体で主体的な学びと人的資本への投資を抜本的に強化し、包摂的で創造的な未来を構築するための対話と行動が求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
AI時代の日本の人的資本形成(個人編)
AI時代を生き抜くキャリア自律に向けた戦略
2025年05月22日
-
AI時代の日本の人的資本形成(企業編)
人事制度改革・学習文化・可視化による人的資本形成の実践
2025年05月27日
-
AI時代の日本の人的資本形成(政府編)
労働者視点のAI戦略への統合と個人支援の強化で拓く日本の未来
2025年05月30日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
-
生成AIが描く日本の職業の明暗とその対応策
~AIと職業情報を活用した独自のビッグデータ分析~『大和総研調査季報』2024年春季号(Vol.54)掲載
2024年04月25日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年8月全国消費者物価
政策要因がコアCPIを押し下げるも、物価の上昇基調は引き続き強い
2025年09月19日
-
2025年7月機械受注
金融業・保険業、不動産業などの受注減で軟調な結果
2025年09月18日
-
2025年8月貿易統計
トランプ関税や半導体需要減の影響継続で輸出金額は4カ月連続減少
2025年09月17日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日