ウクライナ危機がバイデン政権にもたらす3つの厄介ごと

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2022年03月03日

2月24日にロシア軍がウクライナ国内へと軍事侵攻し、首都キエフを含むウクライナ各地で戦火が広がっている。バイデン政権はロシアの軍事行動を強く非難するとともに、22日にはロシアの銀行等への金融制裁等を公表し、24日は追加の金融制裁に加えて、半導体などハイテク製品の輸出管理の強化を公表した。バイデン政権のロシアに対する経済制裁は、ロシア経済に悪影響を及ぼすことで、ウクライナへの軍事侵攻を抑止することを企図したもので、ウクライナとロシア間の停戦交渉は始まったが予断を許さない状況は続いている。バイデン政権も認めるように、ウクライナがNATO加盟国でないことから、米国による直接の軍事介入は難しく、ロシアの軍事侵攻に対する抑止力は限定的といえる。また、米国内の世論調査でも、NATO同盟国を支援するために米国が東欧に軍を配備することは過半が支持しているが、ウクライナに米国が派兵すべきとの声は少数派である。11月に中間選挙を控えるバイデン政権としては、国内世論に基づいた行動を取らざるを得ないわけではあるが、ウクライナ危機が長引けばバイデン政権に3つの厄介ごとをもたらし得るだろう。

1.前門の虎(共和党)、後門の狼(民主党)
ロシアの軍事侵攻への抑止力が限定的な中で、共和党はバイデン政権の外交姿勢への攻勢を強めている。共和党のマコネル上院院内総務は、2021年8月のアフガニスタンからの拙速な米軍撤収がなければ、ロシアは軍事侵攻をしなかったとバイデン政権の弱腰を批判している。他方、民主党内は左派を中心にロシアの軍事侵攻に対する軍事的手段を通じた対抗に難色を示している。もっとも、ウクライナでの人的被害が一層拡大すれば、民主党内でも手のひらを返し、バイデン政権の対応が非人道的だとの批判が強まるかもしれない。

2.ガソリン価格の上昇によるインフレ加速の長期化
米国や欧州からの制裁によって、天然ガスなどのエネルギー供給が滞るとの懸念がある。こうした中、ガソリン平均小売価格は一時3.6ドル/ガロンと2014年2月以来の高水準となった。米国で既にインフレ加速が進んでいる中、こうしたエネルギー価格の上昇は家計の実質的な消費余力を低下させるだろう。バイデン政権はインフレ加速への対応を優先事項としているが、人々の生活が苦しくなればなるほど、バイデン政権への風当たりは強くなり得る。

3.第二、第三のウクライナ危機の発生可能性
超大国である米国がどこまでウクライナに介入するかは、ロシアだけでなく領土問題を抱える多くの国・地域にとっても最大の関心事といえる。もちろん米国にとっての重要性は国・地域によって異なることから、一概にウクライナ危機での米国の対応が参考になるとはいえない。しかし、米国による対応が軍事侵攻の抑止力にならなければ、米国の超大国としての地位が揺るぎ、第二、第三のウクライナ危機が発生しかねないだろう。そして、危機が発生するたびに米国の姿勢が問われることになる。たとえウクライナ危機が今後収束へと向かったとしても、バイデン政権はその余波に悩まされるかもしれない。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐