情報通信業のBCPと本社の地方移転

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2022年02月21日

  • 斎藤 航

2020年初から長らく猛威を振るっている新型コロナウイルスは、企業活動や人々の生活様式を大きく変えることになった。テレワークの活用が進んだこともあり、個人・企業双方において地方に移住・移転する動きが見られる。帝国データバンクの調査(※1)では、2021年1-6月期に、首都圏外へ本社機能を移転した企業数は、186社であり、過去10年間で最も多い。2022年も新型コロナウイルス感染拡大の影響や企業のテレワークが続くと予想されることから、本社機能を首都圏外に移転する動きが続くのではないかと思われる。

企業の本社機能の地方移転(あるいは拡充)を税制面で促進する施策として、地方拠点強化税制という制度がある。本税制は、2022年3月末の適用期限(※2)が迫っていたが、2022年度税制改正では、所要の改正を行った上で、適用期限を2年延長するとしている。

本税制の具体的な適用ケースは数件を除き公表されていないものの、従来、本税制の利用は、製造業や管理部門が多かったものとみられる(※3)。一方で、2022年度税制改正では、情報サービス事業部門を対象に新たに追加するなどの見直しが行われる予定である。従前の制度でも、自社のシステム開発等のための情報処理部門は対象となっていたが、2022年度税制改正では、主に対顧客向けのシステム開発等のための情報サービス事業部門が追加される見込みとなっている。

新型コロナウイルス感染拡大は、多くの従業員が入院や自宅待機を余儀なくされた際に事業継続に支障をきたさないようにBCP(事業継続計画)を策定・点検することの重要性を改めて企業に認識させた。さらに、最近、地震や富士山噴火などによる首都圏への影響を指摘する報道を目にする機会も改めて増えてきている。新たな感染症拡大や災害などの危機はいつ起こるかわからない。首都圏に甚大な被害をもたらし得る有事に備えたBCP対策の一つとして、企業の本社機能の地方への分散化があると考えられる。

とりわけ、情報通信業については、国土交通省の調査(※4)によると、テレワークの利用度が高く、テレワークは業務の効率化等につながるとの回答が多い。その一方で、災害時の代替・バックアップ拠点が未整備・未検討とする回答の割合が高い。今回の税制改正で、主に対顧客向けのシステム開発等を行う部門が地方拠点強化税制の対象に新たに追加されることを契機に、今後、本社機能の地方移転が進展する可能性もあるだろう。

(※1)帝国データバンク「首都圏・本社移転動向調査(2021年1-6月間速報)」
(※2)厳密には、従前の制度では、2022年3月31日までに移転・拡充先となる都道府県知事の認定が必要とされていた。

(※4)国土交通省 企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ「企業向けアンケート調査結果」(令和3年1月29日)

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