石油ストーブはいつまで使える?

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2022年02月15日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 平田 裕子

先週は、日本各所が記録的降雪に見舞われ、東京の平均気温は例年を下回る日が続くなど2022年は厳しい冬となった。そのような中、我が家では石油ストーブが欠かせない存在になっている。圧倒的な暖かさはもちろんのこと、やかんを乗せたり、パンを焼いたり、在宅ワークに暖かい「光」を灯してくれる。一方、その「光」を見ていると、あと何年、「灯油」という化石燃料を使用することが許されるのだろうか、と考えずにはいられない。

昨年末グラスゴーで開催されたCOP26では、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑える努力への決意が示された。地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、世界全体の温室効果ガス排出量を2030年にほぼ半減し、2050年頃にネットゼロにしなければならない。ただ、1.5℃の重要性が広く認識される一方で、ネットゼロの社会やそこまでの道筋への想像力はなかなか追いついていないのが現実かと思われる。しかし、各方面の方々と話していると、2030年だけを見ている議論と、2030年以降2050年までを見据えている議論は異なっている。現在の延長線上に見える「低炭素」と、技術・社会の進展が成せる「脱炭素」の難易度の差は大きい。

IEAが2021年5月に発行した”Net Zero by2050”では、2050年にネットゼロを達成する1つのシナリオ(ネットゼロシナリオ)が示されている(下図)。シナリオは、2030年までにCO2排出量を50%削減するための柱となる方策が、風力・太陽光、電化、省エネルギーであることを示している。一方で、2030年以降2050年までにネットゼロを実現するためには、電化に次いで、CCUS(※1)、行動変容(※2)、水素などの方策が求められることを示している。CCUSや水素等の技術は成り行きでは導入インセンティブが低いことから、カーボンプライシングなど政策的誘導が必須になると想定される。また、行動変容を方向付けるためには、ライフサイクルで環境影響を評価する指標ができ、結果、製品やサービスが淘汰される社会が想定される。このように考えると、早期のインターナルカーボンプライシング(※3)の導入や、サーキュラーエコノミー実践などの道筋が見えてくる。

昨年、日本政府が新たな2030年の温室効果ガス排出削減目標を打ち出したことを受け、各企業や機関は2030年に向けた目標やロードマップを再考している。2030年までの対策に留まらず、2030年以降も見据えた「戦略」になることを期待したい。

なお、前述のIEAによるネットゼロシナリオを見ると、世界の石油需要(エネルギー用途)は、2030年に2020年比で7割、2040年に3割、2050年に1割まで減らす必要がある。寒冷地でもない東京では、遅くとも2030年代には石油ストーブは利用できなくなるのではないかと想像する。さりとて、私自身も、いつまで使えるかよりも、QOL(生活の質)を維持したまま電化に移行する手段を考えたいと思う。

NZE(ネットゼロシナリオ)における排出削減策

(※1)「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、分離して回収し、工業などに利用したり、地中深くに貯留・圧入すること
(※2)自動車の速度制限や空調の設定温度制限、資源リサイクルなどを示している
(※3)企業内で独自の炭素価格を設定し、投資判断等に活用する

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平田 裕子
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マネジメントコンサルティング部

主任コンサルタント 平田 裕子