上昇するプライム市場選択企業の英文開示実施率
2022年02月08日
東京証券取引所(東証)の新市場開始が2か月後に迫ってきた。企業が進めてきた準備として、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の原則の1つである英語での情報の開示・提供がある。
CGコードは市場によって求められる原則や内容のレベルが異なり、英語での情報開示・提供はプライム市場とスタンダード市場の上場企業で対応が必要になる。2021年6月改訂のCGコードでは、プライム市場上場企業は、「開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。」(補充原則3-1②)とされ、一方でスタンダード市場上場企業は「自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。」(同)と、プライム市場上場企業の方がより積極的な英文開示を求められている。
この違いは、プライム市場がグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向け市場であることが理由であろう。もっとも、CGコードはそれに従うことを強制的に求められているわけではなく、コンプライ・オア・エクスプレインという、原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することで対応していくことになる。
東証の「英文開示実施状況調査結果(2021年度)の公表について」(2022年1月17日)によれば、プライム市場を選択した上場企業の英文開示実施率は2021年12月末時点で85.8%であり、前年末時点の79.7%から上昇した。また、プライム市場への移行に際して英文開示の開始を表明している企業を含めると88.9%に達する。プライム市場上場予定企業の大多数がすでに英文開示を行っており、今後もさらに増えていく見込みである。プライム市場を選択した全企業について、東証の資料を用いて英文での開示状況を書類の種類別に当社で集計したところ、開始予定を含めた割合は決算短信が73.3%、株主総会招集通知が71.3%、IR説明会資料が59.6%である。
一方で、スタンダード市場選択企業の英文開示状況はプライム市場よりも低く、印象的であるのはグロース市場よりも低いことである。英文開示実施率の高い書類である決算短信で比較すると、スタンダード市場選択企業は12.9%、グロース市場選択企業は19.5%である(大和総研による集計)。現在のマザーズ市場上場企業の中には国外での募集・売出(グローバル・オファリング)を行う企業があり、海外投資家からの投資を意識した企業が一定程度いることがグロース市場選択企業の方が英文開示の多い理由かもしれない。
上述したように、CGコードへの対応はコンプライ・オア・エクスプレインであり、各企業の判断に委ねられている。企業は事業環境、今後の戦略、ガバナンス体制等を勘案して英文開示の実施やその範囲を決定していくべきだろう。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主任研究員 神尾 篤史
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