役員報酬の決定に関する「義理と本命」
2022年02月07日
バレンタインデーが近づいている。バレンタインデーには自分へのご褒美(報酬)として好きなチョコレートを自ら選んで買うこともよく見られる。しかし、これと同じように企業の代表取締役が自分へのご褒美として好きに自分の報酬を決めることが許されているわけではない。確かにわが国では役員報酬の金額の決定が、代表取締役に再一任されている場合も少なくないのだが、その場合もガバナンスが効くように、役員報酬の決定の方針がしっかりと定められており、報酬委員会などの関与が行われることが望ましい。
近年、こうした役員報酬のガバナンスの強化や開示の拡充が進んでいる。
2019年1月には「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)が改正され、報酬の決定権限を有する者やその裁量の内容、業績と連動する報酬の内容、報酬の決定に関わる委員会などの活動内容についての開示が求められた。2021年3月には「会社法施行規則等の一部を改正する省令」が施行され、一定の上場会社は報酬の決定方針を定めるとともに、事業報告でその方針の概要などを開示することが求められた。
さらに、2021年6月にはコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が改訂され、一定のスタンダード市場上場会社は、指名・報酬委員会を設置し、指名・報酬などの特に重要な事項の検討に当たって、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、委員会から適切な助言・関与を得るべきとされた。加えて、プライム市場上場会社は、指名・報酬委員会の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきとされた。
こうした役員の報酬に関する透明性の向上は上記にとどまらず、足元でもさらなる議論が行われている。2021年9月から開催されている金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)では、報酬委員会の機能発揮の状況に関する情報の重要性を踏まえ、開示を拡充することが検討されている。委員からは、委員会の具体的な活動状況(開催頻度や検討事項など)、役割・権限などについて、有価証券報告書に記載欄を設けて開示を求めるべきといった意見が多く見られた。
役員報酬の決定に当たって、報酬委員会がどのような役割を持っていて、具体的にどのような事項について検討をし、報酬金額の決定にどう関わったのかを情報利用者に伝えることで、役員報酬が恣意的に決められたのではなく、十分なガバナンスの中で公正に決められたことを明らかにすることができるだろう。
DWGの議論の結果によっては開示府令が改正され、有価証券報告書で報酬委員会の活動に関する開示が拡充され得る。単にCGコードなどに対応するために、表面上、「義理」で報酬委員会を設置すればよいというわけではない。「本命」は公正な報酬決定のプロセスを確立し、その内容が投資家等に正しく理解されることである。上記の開示の拡充の可能性にも備えて、報酬委員会の役割や活動の透明性を高めていくことを今から考えておく必要があるのではないだろうか。
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金融調査部
研究員 藤野 大輝