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全世代型社会保障改革は全ての世代に「安心」を与えられるか

2022年01月20日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

岸田文雄政権は「全世代型社会保障構築会議」を設置するなど、全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築に向けて検討を進めている。現在の社会保障制度は、少子高齢化の進展などにより制度疲労を起こしている。同じ年齢でも、若い世代ほど保険料負担が重く、給付水準が低い。また財源の一部を国債発行に依存し、政府の構造的な財政赤字の主因にもなっている。その結果、国民生活の安定や安心を提供するはずの社会保障が、将来不安や個人消費の低迷、少子化などの一因となっているとみられる。

社会保障給付費を長期的に見通すと、医療・介護分野の動向が一段と重要になる。そこで医療・介護給付費を筆者が将来推計したところ、CPIで実質化した医療給付費は2040年度に47.5兆円(2020年度対比1.3倍)に達し、介護給付費は16.4兆円(同1.5倍)へと大幅に増加する見込みである。保険料も増加し、家計の勤労所得に対する医療・介護保険料の比率(保険料負担率)は同1.4倍に高まる見込みだ。経済活動がますます圧迫されることで、家計や企業は社会保障制度をいずれ支えられなくなるだろう。そうなれば、給付水準の大幅な引き下げなどを余儀なくされるとみられる。

医療・介護の給付と負担を持続可能な水準に抑えるためには、どれくらいの取り組みが必要なのだろうか。上記の見通し(ベースシナリオ)のほかに、①ベースシナリオの実質GDP成長率を毎年1%pt引き上げ、②ベースシナリオの医療給付費の伸び率を毎年1%pt引き下げ、③ ①と②を同時に想定、という3つのシナリオを作成した。

シミュレーションを行うと、シナリオ①・②の家計の保険料負担率はいずれもベースシナリオを下回るが、上昇が止まるところまでは見通せない。シナリオ③においてようやく保険料負担率が安定する見通しだ。すなわち、全世代型社会保障改革は「経済成長」と「給付抑制」の二兎を追う必要がある。また、シナリオ②のような規模で給付費を抑制するには、何か1つの制度改革を行えばよいというわけではない。医療提供体制の効率化・適正化、薬価制度改革、かかりつけ医機能の強化、セルフメディケーションの推進、応能負担の徹底、給付範囲・給付率の見直しなど幅広いメニューを大胆に実行する必要がある。

こうした試算結果を踏まえると、求められる取り組みはかなりハードルが高そうだ。しかしながら、現在の社会保障制度が抱える問題を先送りすれば、日本経済の活力が低下して問題が更に深刻化する。岸田政権の全世代型社会保障改革が全ての世代に安心を与えられるか、その動向に注目したい。

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神田 慶司

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