あと2回限り、ほとんどの年金生活者は配当・分配金の税率を5%にできる

所得税は総合課税・住民税は申告不要という課税方式、再び

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2022年01月19日

まもなく今年も確定申告シーズンを迎える。今年の確定申告(2021年分所得について2022年に提出する確定申告)から、個人投資家に朗報がある。それは、上場株式の配当や公募株式投信の分配金につき、「税率を抑えられる課税方式」を簡単に選べるようになったことだ。

現在、上場株式の配当や公募株式投信の分配金の課税方式は、申告分離課税・申告不要・総合課税の3種類あり、3つの課税方式を所得税と住民税でそれぞれ任意に選ぶことができる。それぞれの方式を選択した場合の税率は投資する商品やその人の所得により異なるが、例えば年金生活者が国内上場株式の配当や日本株に投資する公募株式投信の分配金を受け取るほとんどのケースでは、「所得税は総合課税・住民税は申告不要」という課税方式を選ぶことで、正味税率を5%まで引き下げることが可能である(※1)。

もっとも、昨年の確定申告(2020年分所得について2021年に提出する確定申告)までは、「所得税は総合課税・住民税は申告不要」という課税方式を選ぶための手続きは複雑で、所得税の確定申告書を税務署に提出するのみならず、別途、住民税の申告書を作成して市区町村の窓口に提出しなければならなかった。しかし、今年の確定申告(2021年分所得について2022年に提出する確定申告)からは、所得税の確定申告書の「特定配当等の全部の申告不要」欄に〇印を1つつけるだけで住民税の手続きは不要となった。手続きが複雑なために諦めていた方は、ぜひ今年こそ「所得税は総合課税・住民税は申告不要」という課税方式の選択にトライしてほしい。税金の還付により、これまでの投資の成果をより実感できることになるだろう。

一方、個人投資家に悲報もある。残念ながら2022年度の税制改正により、この課税方式は今年と来年のあと2回(2022年分の所得について2023年に提出する確定申告まで)しか使えず、以後は所得税と住民税の課税方式が統一される見込みなのだ。所得税と住民税で課税方式が異なるのは確かに制度として複雑であり、税制の簡素化という点では理解できる。しかし、ほとんどの納税者にとって金融所得に係る税率が給与所得や年金などに対する税率と比べて高水準である中(※2)、「所得税と住民税で異なる課税方式の選択」は中低所得者の金融所得に対する税率を給与所得や年金並みに抑える機能を持っていた。

政府・与党内では金融所得に係る課税の全体像を見直す機運が高まっているが、その際には、個人の資産形成・資産選択や、市場に与える影響、富裕層の海外移転の可能性などに留意しつつも、どの程度の所得・資産を保有している者のどのような金融所得に対してどの程度の負担を求めていくのか、明確なビジョンの策定が望まれる。

(※1)国内上場株式の配当や日本株に投資する公募株式投信の正味税率を5%(所得税は配当控除により実質0%、住民税は5%)とするためには、納税者の課税所得金額が195万円以下であることが条件となる。
収入が公的年金のみである65歳以上の年金生活者については、年金額が年353万円以下であれば、課税所得金額は195万円以下となる。老齢厚生年金受給者の99%以上は年金額が年353万円以下である(厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」より)。
(※2)金融所得に対する所得税率は原則15%だが、納税者の9割以上は総合課税の所得(給与所得、年金に係る雑所得、事業所得など)に対する所得税額の割合が15%未満である(国税庁「令和元年度民間給与実態統計調査」および「令和元年度申告所得税標本調査」より大和総研推計)。

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟